笛!

□太陽3
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まだ寒さが残るものの、日差しは柔らかく桜の木の枝の先に小さくも蕾が芽吹きだした3月。


年を越し、冬休みが終わったかとおもいきや日はあっと言う間に過ぎ去り、明日からは春休みだ。


今日は終了式。それぞれに別れるクラスメートと言葉を交わす。それはもちろん、私も例外ではなくて。


「陽菜ー!」

『おはよ、真里。』


真里とは入学してから仲良くなり、一年と二年の二年間を共に過ごした友達だ。



「ついに三年だね!あー、また同じクラスになりたいなぁー。」


『そうだね。』


「もう、陽菜ってば相変わらず冷たい!」


『え、そんなことないよ‥‥』


「いいのいいの、陽菜がそんな性格ってのは二年間でよーく分かってますから。」


ニシシと歯を見せて笑う彼女に、私は何度も救われる。特に悪気は無いけれど冷めた態度をとってしまっているらしい私に、ここまで仲良くしてくれているのは真里だけだから。

理解して受け止めてくれる。

そんな真里が私は大好きで、私だって三年生も彼女と過ごしたいと思ってる。


「他にも心配なのは、新入部員よねぇ。」



真里はソフトボール部で、小学校の時には野球をやっていたらしく、桜上水中ソフトボール部のエースかつ凄腕ピッチャーだ。



「後輩に舐められたらどうしよう!やだー年下怖いー!」


『大丈夫でしょ。だって、真里だし。』


「ちょっと、それどういう意味?」


『どういうって‥‥そのまま?』


ふっと含みを入れて鼻で笑うと、真里に頭を叩かれた。



さて、今から校長の長い話がはじまる。私達はシューズ片手に教室を出て体育館へ向かう。











──────‥‥‥‥





式も終わり、教室で通信簿の返却も終える。女子達はまだこのクラスでいたい、2のB最高!とそれぞれに口に出している。


‥‥馬鹿馬鹿しい。
一年間、仲良しグループで固まってクラス全員と一致団結なんてしなかったくせに、こういう特別な日になってからきゃんきゃん騒ぎ立てる。


そんな上辺だけの言葉なんて、陳腐すぎてただただ笑えた。


私がこのクラスに思入れしてるのは真里と、他に真里の連れで仲良くしてくれた蘭ちゃんと鈴歌ちゃんだけだ。(ちなみに蘭ちゃんと鈴歌ちゃんもソフト部)


どうしよ、新しいクラスで別れちゃったら、私‥‥友達できるのかな。ちょっと心配になってきたよ、今更。


あ、いけない。
忘れるとこだった‥‥


『真里!』


「どうしたの?」


『転校はしないんだけどさ、引っ越すことになって。』


「ええ!?聞いてないよ!」


そりゃそうだ。今言ったからね。


『それは置いといて、これが新しい住所ね。』


「‥‥リョーカイ!また遊び行くね。」


『、うん』


住所に目を通して一瞬眉をしかめた真里だが、何も触れずに笑ってくれた。やっぱり大好き、真里。


真里が不審がるのも当然だ。今までは立派な一軒家に住んでいたのに、アパートに引っ越すのだから。










各々に別れを告げて家への帰路につく。しあさってには引っ越しだ。荷物を詰めはじめないと。


帰宅後の段取りをあれこれと考えながら道を進んでいくと、前に綺麗な黒髪を持った男の子と会った同じ場所で金に輝く髪の男の子が立っていた。



思わず足を止めてその髪が靡くのに見とれる。



彼が振り向くのが、スローモーションの様に感じられた。こちらを見て驚いた表情を浮かべたかと思えば、ニカッと笑顔で駆け寄ってくる。


「久しぶりやね、俺ん事覚えとる?」


少し前に聞いた関西弁のイントネーション。


『‥‥────ごめん、わからん。』



そう言い放つと、関西よろしく派手にずっこける(フリをした)。



「姉さん酷いわ!前に‥‥秋ぐらいにここでおうたやん!」


『ああ、黒髪の。パツキンじゃ分からなくなるよ。無茶言わないで。』


さらりと素知らぬ顔で言いのけると次は大きく笑い出した。


「あっはっは!姉さんおもろいな!名前なんていうん?」


まだ腹を抱えて笑う彼に、少しムッとした私はちょっとした意地悪を思いつく。



『失礼ね、自分から名乗りなさいよ。』


「おお、すまんかった。俺は‥‥佐藤成樹。シゲって呼んでや!」

『嫌。』


「い、嫌って‥‥ホンマもんやな!腹がよじれそうや‥‥!」


ホント、失礼ね。


「‥‥で、お名前は?」


まだひーひー笑う彼に私もニッコリ笑顔を返す。


『ねえ君、運命って信じる?』


「は?」


突飛な質問に彼は笑うのを止めてキョトンと私に視線をやる。


『一回目は偶然、二回目は奇跡、三回目が運命。今回は二回目の奇跡。運命になったら教えてあげる。』


「そんな殺生な!俺は教えたんに!」


私はふふんと笑う。


『大丈夫よ。君、桜上水でしょ?私もだから、会えるよ。‥‥多分。』


「多分かい!」


ナイスつっこみ。


『じゃあ春にね、佐藤成樹!』


「シゲでええっちゅうに。」



足を進めはじめる私の背中にかけられた声は無視して。少し憂鬱だった新学年に楽しみが出来たからか、足取りは軽い。



さぁて、荷造り荷造り。

















第02話 END

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120327 真宮 瑠榎

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