青エク夢

□雪の色
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ハラハラと、白い粒が仄暗い雲の合間から降り出した。はぁ、と息を吐くと白く濁り、空気の冷たさを感じさせる。



ネオンの光りが妖しい雰囲気を醸し出し、夜の闇を飲み込んだ。



もうすぐ0時。明日は恋人達が色めき立つクリスマスイヴ。そんな夜でも、ここは輝きをくすませることはないようだ。あちらでは女が男を誘う声、そちらでは殴り合いの喧嘩の男。こちらでは男が私を誘う声。


『ごめんなさい。ここを通らなきゃ帰宅できないだけで、興味ないの。』


そう言っていつものようにキャッチをいせいせと頑張る若者を笑顔でスルーして、先に進んでいく。無意識にため息が零れた。もっとお金を持ってそうな女に声をかければ、大富豪のお遊びできてくれるかもしれないのに。もしくは、媚び売る男にメロメロきゅんきゅんして金をバラ撒くような女に見えたのだろうか。だとしたら悔しい。生憎私は、お遊びでお金をドブに捨てるようなことをする女ではない。


いつものように水商売に対しての意見を連ねているといつのまにやら家に着いた。鍵を開けると迎えるのは誰もいない家。もちろん「おかえり」と言ってくれる恋人もいないわけで。


ああ、自分で言っててカナシイ…。ぱちり、と電気のスイッチを入れると、見知らぬ男性が横たわっていた。


ぱちり、と電気を消した。







…………え。







もう一度電気をつけると、幻ではなくしっかりとそこに存在していた。ん、あれ、鍵閉まってたよね、ちゃんと。




とりあえず私は近付いてみると、思ったより若いことが判明。どうしたんだ、青年よ。と心の中で聞いてみるが、きっと呟いていても固く目を閉じた彼が答えてくれはしなかっただろう。


170センチは裕に超えるであろうその大男の腕を肩に担ぎ、男のつま先を引きずるようにしてベッドへ運ぶ。ん、なんだか体温が高い…?いや、外から帰ってきたばかりの私が冷たいからそう感じるだけかもしれない。と気に留めなかった。


人のいなかった家は外と同じように冷えて、息も白いくらいだ。あまりの寒さに慌てて暖房をつけて暖める。


ふう、と一息ついて改めて青年を眺める。奇抜なコートに、黒い淵の眼鏡。頬には珍しくも高い縦に並んだ二つのホクロ。ついでに口元のホクロもエロさを醸し出している。



んんー…このイケメン君、どっかで見たことあるような、ないような。





『って、何、すごい汗…!!』




視界に入った青年の状態に、一旦思考は遮られた。青年は額に汗がふきだし、呻きだしす。慌ててタオルを濡らしてきて汗を拭ってやり、額に手をあてると、そこは焼けるように熱かった。


目についた暑苦しくそうなコートを引っぺがして毛布と布団を被せて加湿器も起動させる。薬箱をひっくり返して解熱剤を探し出し、水を持って彼に近づく。


上身を少し起き上がらせてはぁはぁと荒い息を繰り返す唇にコップを近づけ、水を飲むことが出来るか確認する。コクリと嚥下したことを確認できると、薬を口に含ませて再び水を口につけさせる。仕上げにもう一度タオルで汗を拭き取ってあげてから、私はリビングに戻った。



なぜ見ず知らずの怪しい男にここまでするのか。

その理由は、ただの私の悪い癖だ。彼氏ができても、面倒見がよすぎるのか、母親のようでウザい、恋愛対象に見れないとか言われたり。またはそれを逆手にとって利用しされていいように扱われて、裏切られて、ぽいっ、そんなオチばかりだ。


ああ、もう0時23分。クリスマスイヴ。今年も、一人。


なるほどなるほど、そんなサビシイ私にサンタさんはイケメンをくれたんですね。

そんな乙女チックな自分の思考に、お前はいくつだと一人で突っ込みをいれて一気にビールを煽った。











(アルコールの熱で浮されたように頬に赤が差した)






120123 真宮 瑠榎


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