笛!
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「やったな、陽菜!!ドイツには腕のいい医者がいるらしい!!」
「これでまた、サッカーできるな!」
「絶対よくなるから、また一緒にサッカーしよう!」
「陽菜、応援してるから!」
「頑張って!」
「陽菜が抜けた穴は大きいけど、待ってるから。貴方が帰ってきてもガッカリしないようなチームを保つ…いいえ、今以上の素晴らしいチームで迎えるわ!」
━━━━━‥‥‥治る‥‥?
また、サッカーができる‥‥?
そうね、私も、それを信じたわ。
すぅ、と閉じていた目を開けば眼前に広がる青い空。雲一つとない快晴だ。
ここは日本から遠く離れたドイツのとある病院。その屋上からの景色は絶景と言えるほどのいい見晴らし。
はぁ、と深い息を無意識で吐いていた。
『憎いほど青いね、君は。』
皮肉たっぷりに呟いた言葉は何事もなく空に吸い込まれた。座っていたベンチから立ち上がって病室に戻ると、そこには母親が立っていた。
「どこにいたの、心配したじゃない。」
ほら、安静にしておかないと。と私をベッドに促す。
『どうしたの?』
「あら、大事な娘の見舞に来るのが悪い?」
クスクスと可笑しそうに笑う母親に、私は別に。と口を尖らせた。
『でも、仕事は?』
そう。お母さんの仕事はもちろん日本国内だ。
「丁度ドイツに出張になったの。だから、しばらくはこっちに居るわ。何かあったら連絡してね。仕事中だろうがなんだろうがすぐ駆け付けるから。」
ああ、お母さん。大好き。
遠く離れて住むお母さんとは滅多に会えない。たとえ毎日連絡を取り合っていたとしても、やはり実際会うのとでは、全然ちがう。
『お母さん‥‥』
私は甘えてお母さんの手を握った。するとお母さんはすごい悲しそうな、泣きそうな顔をした。
「ごめんね、そばにいてあげられなくて。」
馬鹿ねお母さんってば。しょうがないよ。謝らないで、泣かないで。私まで泣きたくなるから。だって今のこの現状は私自身が作り出したものなんだから。
シングルマザーで私を育ててくれたお母さん。私の治療費や家族の生活費すべてを担う彼女が仕事を辞められるはずもなく、私は一人ドイツで生活することになった。
『お母さん、お母さん。大好きだよ。』
何故かとても伝えたかった。抱きしめてくれる母の体温は、すごく温かくて。睡魔をそそられた私は、まだお昼に関わらずも瞼をおろした。
ごめんなさい
私が意識をフェードアウトする直前に呟いた言葉は、彼女に届くことはなかった━━━━‥‥‥。