笛!
□07
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兄が去った後。私はただただ割れた花瓶を眺めていた。まるで私みたい。飾っていた花は私。水がないと萎れてしまう。割れた花瓶はこの足。いくら接着剤で見せかけだけ良くしても、水を注げば漏れてしまう。床を濡らした水は涙。
サッカーを諦める。
私は足を殴った。何度も何度も。布団の上から殴っても、バスバスと鈍い音をたてるだけ。ケガなんてしなきゃサッカーを諦めなくて良かったのに。お母さんが死ぬことなんてなかったのに。
『いらない、なんて今更───‥‥っ』
バス、バス、バス
なくしてしまってからイラナイだなんて。
『──‥‥っ‥‥ふぇ‥‥』
バス、バス、バス
痛くなんてない。こんな痛みなんて痛みじゃない。
バス、バス、バスっ
「陽菜ちゃん…?」
───‥将だ。
『しょー……』
「陽菜ちゃん、どうしたの?足が痛い?」
そう言って彼は心配の表情を浮かべてベッドのそばに寄って来た。
『ううん、違うの…。』
ねぇ、将‥‥
『私、』
言葉を発する唇が震えて声も震える。なかなか次の言葉を紡げないでいると、将は私の背中に手を添えて優しく言った。
「待つから。ゆっくりでいいよ。」
ふわりと喉でわだかまってたなにかが腹の底に沈んで行った気がして、次の言葉を体の中から追い出した。
『わたし、さっかーあきらめるの。』
自分で口にしたそれ。
異様に口の中が乾いて喉が張り付く感じに見舞われる。将は、驚いた様に目と口をぽっかりあけていた。
なぜかそんな彼が可笑しくてクスリと零れた笑み。
私、笑える。
大丈夫。私はサッカーを諦められる。