傷愛恋歌

□炎の章 演舞 壱
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「志炎…この後…予定はあるか?」
 午前中の職務が終わった頃だった。疾風が妾の元へ来たのは。
「あいてはいる。寄る所はあるがな」
 妾は卓上に散乱している書類を類別に分けながら疾風を見る。
「何か用か?」
「大事な話がある。花畑に来て欲しい」
「妾達が初めて逢った?遅くなるぞ?」
「それでも待つ……お前が来るまでな」
 そう言うと疾風は妾に小さくキスをすると自宅へと帰っていった。
「──…疾風?」
 阿奴が妾を見る瞳が、いつもと違っていた。何かを強く想ってる瞳だった。
(どうしたんだろう?)
 ──…だが、阿奴が妾に話したかったことが、判ることはなかった…
 妾が花畑へ行った時、阿奴は……





 遙か昔、まだこの世界に悪が蔓延っていた頃、四神龍と呼ばれる四人の龍神達がいた。
 水と氷を操る蒼龍寺凪都王。
 地の属性を持つ錬金術師の地龍帝璃琥哉王。
 天界一の剣の達人にして、風だけではなく水・闇さえも自分の力にした純血なる竜族の皇子、風龍寺疾風王。
 炎よりも美しく輝き、光・地を自在に操り時空までを己の力にした天界史上最強の闘神にして絶世の美貌を持つ、バトルローズ・天上の歌姫と呼ばれている純血なる竜族の姫、炎龍帝志炎王。

 これは、闘神・バトルローズの物語。炎龍王の物語である────




 愛しいと想ったのは、いつからだろう…
 恋しいと感じたのは…いつからだったのか…
 阿奴の傍が…心地よかった。ずっと、初めて逢った時から…愛してた……
 あの低い声を
 あの温もりを
 あの笑顔を──…

 ──…疾……風…




「──六時五分前、起こさなきゃ…」
 深緑色の少しくせのある髪をした青年が、紅い豪華な金の龍の模様が施された両開きの扉を前に立っていた。彼の名は鳳凰王・凰慈。炎龍が幼少の頃より、異母姉である朱雀王・朱理と共に面倒をみていたために、毎朝凰慈が炎龍を起こすことが日課になっていた。
「──…」
 凰慈はドアノブをに手をかけるが、すぐ開けることが出来なかった。

《いや……やぁああ…………嘘だァアアァアッ》

「……ッ」
 凰慈は心を決め、扉を開いた。そこには、朝に弱いはずの炎龍が、窓際に右膝をたてて座っていた。
「──…」
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