傷愛恋歌

□風の章 演舞 壱
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 夜は嫌いだ。
 あの頃の夢を…いまだに見るから。








「……おい」
「やぁ、志炎」

 深く深く息を吐くのは、愛しい我が君。

「こんな深夜に妾の寝室に何をしに来た」
「ん?夜更けに男が来る理由など一「誤魔化すなら帰れ。妾理由を聞いた」
「………」

 なぜ君は…いつも真っ直ぐに見抜くのだろう――…

「……疾風?」
「…もっと…その名を呼んでくれ」
「…疾風、どうした?」
「…月がない…か…ら」

 真っ暗な…夜。星の光も届かない闇。
 鼻につく血の匂い。
 …赤く塗れた、両手。

 飲み込まれてしまいそうになる。




 深い深い闇の中に。


「…リディアを…消してくれ…」
「……リディ…」
「“俺”を…消してくれ!!」

 気が付けば、強く志炎を抱き締めていた。痛みにもがく志炎をさらにキツく抱き寄せる。

「俺は…俺は違う!!」
「落ち着け、落ち着くんだ疾風…」
「俺…俺は……」

 父であるベルゼブブから逃げるために奴を刺し、その手から逃れた。口に出すのも嫌な行為。
 両手の血を…嫌悪するどころか…恍惚としたのを覚えている。


 私もいずれ…あぁなるのだろうか…? 生きた人間の血肉を食らう…父のように――…

「…大丈夫、疾風は優しい。だからそうはならない」
「………志炎」
「それでももし、その欲求にかられたら…妾を喰らえばいい」
「?!」

「お前の中で血となり肉となり…ずっと共に生きてやる」

 凛とした声に、力を緩めれば柔らか微笑みが私を見つめる。

「…ずっと、いてやるから」
「…志炎」




 ずっと…なんて…本当は無理だ。


 私達は呪われているのだから…





「…愛している」
「…知っている」



 私達が救われる事は有りはしないのに



 私達は罪を犯したのに






 リティアはただ…みんなと居たかっただけで



 あの悲劇が起きたのはみんな、私のせいなのに…




 咎められても…良いはずなのに





「志炎…」
「……ん?……ちょっ…待て…っ」
「…待たない待てない」



 その優しさに、堕ちてゆく






「―――っ…ん…」
「……なんだ?まだキスしかしてないぞ?」





 甘く酔いしれ堕ちても…いいだろうか





 この最愛の甘美な蜜の中で…








 永久の眠りに…堕ち逝くまで――…









end
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