小説のお試しページ
□Kiss my lips
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「ルル…せっかく甘酒も持ってきたし、飲んでみようか?」
ぼんやりとしたした思考の隅で、スザク様の声がそう聞こえて、口の中にとろりした甘い物が流し込まれた。
口の中に流し込まれたものは、スザク様が言っている甘酒。
唇が触れあって、舌と一緒に甘酒が口内に入ってきて、段々と甘さが口の中に広がる。
スザク様のキスが甘いのかな…それとも甘酒のせい…?
両方の甘さに僕はもっともっとと求めてしまう。
もっと、スザク様で僕を甘くして…。
こくんと喉を鳴らして飲んで、甘酒の甘さが体に広がると、元々熱くなっていた体がもっと熱くなって思考が働かない。
甘酒に…酔ったのかな…?
「しゅじゃ…く…しゃ…ま…」
呂律が回らなくなってきて、自分でも何を言っているかわからない。
「も…と…」
舌を出して、ぺろりとスザク様の唇を舐める。
子猫みたいに何度も舐めた。
スザク様の唇に残っている甘酒の甘さととスザク様の唇の甘さを感じたくて。
「可愛いね…お酒に酔って、ルルが桜色に染まってるよ」
つつっと首筋をスザク様の指でなぞられて、長い指がシャツの第一ボタンまで流れていく。
「ら…らめ…」
指が少しでも肌の上に触れるだけで、それに反応して体が弛緩してしまう。
体がとろとろに融けて無くなってしまいそうで、思考がはっきりしないけど…でもちゃんとスザク様と一緒にいるってことはわかっていたい。
もっともっとと思ってしまう心は、スザク様の腕に添えていた手を背中に映して、ぎゅっと力を込めてしまう。
つい爪もたててしまって、スザク様の顔が痛そうに少しだけ眉を寄せた。
普段は人の爪みたいだけど、ネコミミ族は爪をたてると猫みたいな爪になる。
だから、スザク様の腕にたてられた爪痕は猫にひっかかれたみたいに痛々しくて、きっと血が滲んでいる。
「ごめ…なさ…き…ず…みせて…」
自分の手を見てみると、少しだけ爪に血が滲んでいた。
やっぱり傷つけてしまったんだ…。
傷つけてしまった辛さに泣いてしまいそうになるけど、ぐっとそれは堪えて、僕はスザク様のシャツをそっと握って引く。
瞳が潤んできて、涙が零れそうになるのを何とか堪えて、スザクをじっと見上げて、お願いをした。
「しゅじゃく…さまの…せなか…らめ…ます…」
「舐めてくれるの?」
スザク様の問いかけに、僕はこくりと頷く。
「けが…して…ます…」
「じゃあ、お願い出来るかな?ルルが舐めてくれたら、早く治ると思うから」
僕がこくんとまた頷いて答えると、スザク様が僕を離してシャツに手をかける。
スザク様がシャツを脱ぐと、健康的な日焼けした肌が視界に入ってきて、思わず手でそれに触れると汗で少し湿っていたらしくて、胸がとくんと高鳴った。
綺麗に筋肉がついたスザク様の胸は固くて、僕をいつも優しく抱き締めてくれる。
少し湿っている肌に触れると、あの時もこうして触れている事を思い出す。
この人に、大好きな人に、触れてもらえているんだって、改めて実感出来た。
触れてもらえるだけじゃなくて…僕も触れたいって思う。
大好きなこの人に。
スザク様の背中が向けられて、やっぱり血が滲んでいた。
舌を出して、そっと舐めると、少し痛そうにスザク様が呻く。
でも、続けて、と言われて、僕は乞われるままにまた傷口を舐める。
背中には、僕が他にもつけてしまった治りかけの爪痕や、治ってはいるけど残ってしまった傷の痕がたくさんある。
スザク様は僕が傷をつけてしまっても、スザク様はいつも笑って許してくれる。
君がつけてくれる傷は、君が僕に触れる勲章で、君がここにいてくれる証なんだ、大切なものだよって。
だから、僕がつけた証がスザク様に取って大切なものになっているなら…僕もそれを大切だって思わなくちゃいけないんだ。
スザク様の体についてしまった傷は、スザク様が望んで受け入れてくれて…そして何よりもスザク様の傷だから…僕も愛しいって思えた。
だから、傷の一つ一つにも僕はそっと唇を寄せて、口付けを落とす。
スザク様が大好きって気持ちを込めて。
傷のすべてにキスを終えてスザク様に告げると、お互いが向かい合わせになる。
節のある指で唇をなぞられて、僕はスザク様の手に自分の手を添えると、指を口に含もうとしたけど、スザク様は首を横に振って違うと訴える。
「今日は指じゃなくて…俺のを舐めてくれる?」
あ…スザク様が、僕から俺に変わった…。
スザク様はこういう事をしていると、僕から俺に変わる。
優しいけど、僕に触れると少し意地悪なスザク様になる。
意地悪だけど、でも僕はそんなスザク様も大好きなんだ。
「俺のを舐めてくれるかな?」
再度問われて、僕は当たり前にそれに頷く。
スザク様に求められたら、それは僕の中で絶対に応えようって決めていたから。