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□純情可憐狂想曲〜second season〜
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それから俺たちはスザクのおばさんが経営している民宿の最寄駅までついた。
ここからは歩いて15分程度。
されど、体力のない俺には夏の15分は厳しい以外何物でもない。
そんな体力のなさを知っているから、スザクは自分の分と俺の分の二人分の荷物を背負ってくれている…すまないスザク…。
15分の距離で照らされる熱帯の日差しの中で、流石に倒れることはないと思うが、辛いものは辛い。
せめてもの救いはしっかりと日焼け止めを塗ってきたから、肌がひりひりと痛くならないだけだろうか。
俺は日に当たると日を吸収して肌が真っ赤になるタイプだから、そうなると泣きそうなくらいに痛くなってしまう。
普段はなるべく長袖のシャツを上から着ているのが常だが、旅行先くらいは…何て言うか、やっぱりおしゃれって言うか…そういうのをして、スザクに褒められたりしたいじゃないか。
だから、そのためにナナリーが買ってくれた服を着てきたのだから。
まあ、とにかく今は歩くことに集中しよう。
スザクに呆れられないように、歩かなくては。
「ルルーシュ、暑い中を歩くけど、大丈夫か?」
「あ、ああ」
自信がないが頷くしかない。
スザクに手を引かれて、海沿いの道を歩いていくと、さーと気持ちの良い風が流れる。
髪を揺らして吹いていく風は、潮の匂いを運んでくれた。
スザクのふわふわの髪も揺らされていて、まるで綿毛のようにふわふわとして、触り心地の良さそうなのを物語っている。
いつも思うが、本当にスザクの髪はふわふわでとても触り心地が良い。
だから、こんな風に誘われてしまったら、誘惑に勝てるわけがない。
触り心地の良い髪に、思わず手が伸びていた。
「ん?どうかした?」
「いや…別にごめん…」
慌てて手を引っ込めると、スザクが歯を出してにかっと微笑む。
「あ、俺の髪の毛ってふわふわだからまた触りたくなったんだろ?」
スザクの年相応の可愛らしい少年の笑顔で、胸がキュンと跳ねる。
少し意地悪な笑顔も優しい笑顔も好きだけれど、こうした無邪気な笑顔も俺は大好きなんだ。
スザクの一つ一つの笑顔が好きで、いつも俺の心のアルバムの中に大切に記憶しているんだ。
「しょうがないだろ、お前の髪がふわふわで俺に触れって誘うんだから」
「ふーん、じゃあ俺と一緒だ」
「俺と一緒って…?」
「俺もルルーシュが可愛いから、ルルーシュに誘われて、たくさん触れたくなるんだ」
さっきまでの無邪気な笑顔はどこへやらで、今度は意地の悪い口の端が上がった笑みを浮かべて、俺に顔を近づけてくる。
しかも外で言うような言葉でもないから、俺の顔は夏の日差しでなく、スザクのせいでとけてしまいそうなほど真っ赤だ。
「な、何を急に言うんだ!馬鹿!」
「本当の事だろ」
「そ、そんなわけ…」
そんなわけあるはずないと言いかけて、スザクに至近距離まで腕を引かれると、人目を憚らずそのまま軽く唇へと口付けられる。
瞬間湯沸し機のように、自分の体の熱が一気に熱くて、赤くなっていくのがわかった。
恥ずかしさからなのか、へなへなと体から力が抜けて、その場に情けなくもしゃがんでしまった。
悔しさに唇を噛んで睨むけれど、睨んでもスザクには効果がないってことはもうわかっている。
俺が睨んでいる姿も大抵が、可愛い、誘ってる、やらで片づけられてしまうんだ。
「ほら、またそうやって可愛い顔する。だから誘ってるって言うんだよ。上目遣いになってて…悔しいせいなのかな、ちょっと目が潤んでるのが可愛い」
スザクはけらけらと笑い、楽しそうに、平然とそう告げる。
馬鹿、スザク…!
お前が変な事をするから、俺がこうなるんだろうが…!
あ、いや、スザクは俺がこうだから触れたくなるって言っていて…俺がこうなるからスザクが触れてくるのか…?