小説のお試しページ
□やさしい贈り物
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ガラスの向こうは暖かい光が満ちていて、外の世界とは違う気がした。
せめてマフラーと手袋があったら暖かくて、少しは向こうに近づけるんだろうか。
手袋を買えるくらいのお金だって母さんからもらっているけど、なるべく節約して家計を助けたい。
そして、母さんは僕が手袋を持っていないって知らなくて、買ってもらうこともないから、僕にはマフラーも手袋もないんだ。
クリスマス、なんて僕には関係ないから、さっさとスーパーに行って帰ってしまおう。
くるっと振り向いてショーウインドウから離れると、雪がぱらぱらと降ってくる。
こんな雪なんて煩わしいだけなのに、周りの人はわいわいと嬉しそうに騒いでホワイトクリスマスを喜んでいて、誰かと一緒に歩いている人も、誰かが待っている家に帰ろうと嬉しそうにして笑顔で走る人も、とても暖かい顔をしていた。
おもちゃ屋さんの向こうの世界は暖かいのかな、なんて思っていたけど、そんなの関係ない。
ただ、僕の今の心が寂しいから、周りが暖かく見えるだけで、自分が寒く感じてしまうんだ。
僕は慌てて首を振って、自分の浅ましい思考を切り替えようとする。
クリスマスが寂しいだけで、僕にはたくさんの人がいてくれるじゃないか。
母さんも友達もいて、絶対的に一人になったりすることはないじゃないか。
美味しいご飯だって食べれるし、母さんが家に帰ってきたから、ただいまって優しい笑顔を僕に向けてくれる。
だから、僕は幸せなんだから、誰かを羨んだりする浅ましい考えは捨てるんだ。
そうだ、そういう考えをしようって思って、ちゃんと寂しくないってわかっているけど、僕の瞳からぽろりと涙が零れた。
思いこもう、考えようって思っていても、心の奥から寂しいって思ったら、表面上しか出来ないみたいだ。
幸せだって思う瞬間はたくさんあって、僕は幸せなんだけど、でも今は寂しいんだ。
寂しい、寂しいよ、寂しいんだ…どうして僕にはクリスマスがないんだろう…。
お財布の入ったかごをぎゅっと握り締めて、僕はぽろぽろ涙を零してしゃくり上げる。
男なのに、こんな人前で泣くなんて情けない。
でも、みんなはクリスマスで浮かれ気分だから、僕に気づいていないし、少しくらい泣いてもきっと気づかないよな。
コートの袖でごしごしと涙を拭って、泣くのを我慢しなくちゃって思うけど、涙が止まらない。
「う…ひっく…」
鼻の頭がつんとして、すごく痛い。
泣いているのと、寒さにやられてしまって痛いんだと思う。
「大丈夫?」
「ふえっ?」
僕がぐずぐず泣いていると、ひょいっと体が浮く。
視界に茶色のふわふわのくるくるが入ってきて、次に見えたのは澄んだ深い緑色、そして次に見えたのはいつもよりもとても高い視界になっていて見下ろす地面だった。