企画物

□嘘つきベイビー
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「こんな所に呼び出して何の用じゃ。」


そう言って月詠はいつもの仏頂面のまま隣に腰掛けた。

馴染みの甘味屋は今日も空いていて、客は俺と月詠の二人だけだった。



「あー、まぁちょっと、話あんだけど。」


「話?」



「俺さァ、彼女できたんだよね。」




言った。言ってしまった!




もちろん、これは嘘である。

彼女なんてモンいる訳がないのである。

だって俺が惚れてんのは他でもない、目の前のコイツだから。



だったら何故こんな嘘をつくのかって?



それは、今日がエイプリルフールだから だ!



1年間、365日のうち1日だけ嘘が許される日。

俺は天人が持ち込んだこの素晴らしい風習を存分に利用することにした。



だってアレだよ、相手があの月詠だよ。

あの意地っ張りで強情で素直じゃない、おまけに鈍感な月詠さんですよ。

そんな奴に惚れた俺の苦労、わかりますか。



知り合ってからというもの、何とかして関係を発展させたくて必死に足繁く吉原に通ってるっつーのに全ッ然気付かねぇし。

気付くどころか『また団子でも食べに来たのか?』とかのんきにほざきやがる。

いやいや違ェよ誰に会う為にここまでのこのこやって来てると思ってんだ!つーか団子よりむしろお前を食いたいです!

という本音は100%殴られるから言わないけども!



んでやっぱり脈なしか?なんてしょげてたら、メス豚の年賀状を真に受けて落ち込んでたりバレンタインにあたふたしてたりなんかして思わせぶりな態度取るし。

もうお前何なんですかと。
結局俺のことどう思ってんですかと。



そう思って思いついたのが、このエイプリルフールを使った『俺に彼女ができたらどんな反応するんだろなツッキーは』作戦だ!別に名付ける必要はないけど!

そんで今日こそコイツの本音を確かめてやる!



そう意気込んで、早速前々から用意していた大嘘を吐いてみたら。



「・・・そうか。」



と、一言。



えええええそれだけ!?
ちょっと傷ついたり怒ってみたりとかそーいうの全然なし!?
いやさ、仮にそれがなくても『おめでとう』とか『お幸せに』とか何か言うだろフツー!!どんだけ俺に興味ねぇんだよ!!
つーかその『それが何か?』みたいな顔だけはやめてほしい!!なんかソレ一番堪える!!



「・・・相手はどんな女子なんじゃ。」


「・・・は、え?どんなって?」



月詠のあんまりな反応に一人頭を抱えて嘆いると。

当の本人は俺の気おかまいなしに、まるでどっかの親父が彼氏が出来た娘にするような質問を投げかけてきた。

お?ちょっとは俺の彼女(嘘だけど)とやらを気にし出したか?



「ぬしに惚れる女子など天然記念物並みに珍しいからのう。どういう人物か聞いておこうかと・・・」



ってそういう意味かよ!!



「きっとさぞかし心の広い女子なのでありんすなぁ。」


「テメー失礼なこと言うんじゃねぇ!!まぁでもアレだね!お前みてーなサイボーグ女よりは可愛くって心優しいお嬢さんかもね!!」


「誰がサイボーグじゃ!ぬしのような頭の中まで天パな男に言われたくないわ!まったく、ぬしのような男の恋人になるなんて『彼女』とやらに同情してしまうわ!わっちなら全力で願い下げじゃ!」


「うるっせェ!俺だってテメーみてーな女パフェ100杯積まれてもごめんだね!」


「ふん、両思いで何よりじゃ。」


「あーそうだな!!」



ああああダメだこりゃ!
結局いつものパターンじゃねぇかコレ!
でも何だ!?コイツは俺のこと何とも思ってないってことか!?
というよりただの天パとしか思ってないってことか!?
つーか両想いって!
何!?最早どうつっこめばいいの!?



「〜〜〜っ・・・はあ・・・・・・。」



ああもう。銀さん傷つきました。

もうこりゃ帰ってヤケ酒飲んで寝るしかない。

何だコレ。寂しく一人芝居しただけじゃねぇか。情けな!かっこわる!



ということで、俺のエイプリルフールは無惨な結果で溜息と共に幕を閉じた。・・・と思った。

甘味屋のオヤジに『ツケで』と魂が抜けたような声で告げて。

背中にオヤジの怒号を浴びながら無言で席を立ってその場を去ろうとした時。

背後から月詠に『銀時、』と呼びかけられた。



「・・・ぬしは人を護れる男じゃ。彼女と幸せに。」



さっさと逃げ帰ろうとしていた足がピタリと止まった。

今まで張りつめてた何かが、頭の中でぷっつん、と切れた音がした。



「・・・ふざけんなよお前。」


「・・・え?」


「・・・何が『幸せに』だコラァァァァ!!」




気付いたら、道の往来で大声で叫んでいた。

道行く奴らにジロジロ見られたけど、あいにく頭の中が沸騰状態なのでそんなことは気にならない。



「な・・・!?何故イキナリ怒っておるんじゃ!!」


「何故じゃねーよ人の気も知らねーで!!嘘だよ全部嘘!!」


「う、嘘・・・!?」


「そーだよ今日はエイプリルフールなの!嘘つく日なの!!簡単に騙されてんじゃねぇこのアホ!!」



我ながら逆ギレだと思うけど勘弁してほしい!
だって仕方ねぇよコレは!
『幸せに』なんて言われたら銀さんもう心ボロボロだよ!
これ暫く立ち直れねーよ!!



とか激しく心の中で嘆いてたら、



「騙したのか貴様ァァァ!!」


「いってぇぇぇ!!」



クナイがオデコに刺さったァァ!!もう心身共にボロボロなんですけどォ!!



「ぬし、わっちのことをからかっておったのか!?」


「違ェ!テメーが全ッ然俺の気持ちに鼻くそ程も気付かねぇからわざわざ大嘘吐いて反応見ようとしてたんだろーが!!」


「な、」


「言っとくけどお前以外はみんな気付いてたから!!日輪も晴太も神楽もメガネもみんな気付いてて俺が必死になってんのニヤニヤしながら見てたから!!つーか口で言わないとわかんねぇとか中学生ですかテメーは!!」


「な、ぬ、ぬし、結局何が言いたいんじゃ!!」



「だーかーら!!俺はお前に惚れてんだって言ってんの!!ついでにその惚れた相手に『幸せに』とか言われた俺の心情を察しろボケェェ!!」




「・・・・・・え?」



言われた意味が理解出来なかったのか、月詠は壊れたゲーム機の中にいるキャラみたいに完全にフリーズした。

ついでに俺の頭の中もフリーズ状態。
つい流れでいらんことまで言ってしまった。

でも何かもういいや!!どうにでもなれコノヤロー!!



とか考えてるうちに、何やら顎に手を添えて何か考え込んだらしい月詠が漸く口を開いた。



「・・・・・・じゃあ、ぬし・・・わ、わっちのことが、すすすすき、なのか?」


「・・・だからそう言ってんだろ。」


「・・・・・・っ」



・・・ん!?
アレ!?なんか、どうした?
何かコイツ、イキナリ物凄い勢いで赤面してんだけどォ!!
そんで何かちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいか!?

・・・ていうか可愛い顔してこっち見てんじゃねェェェ襲うぞいいのかコラ!!



「い、いい訳ないじゃろう!!」


「あ、聞こえてた?」


「ダダ漏れじゃ!」



そう言われても、怒りながらも盛大に照れている姿はやっぱり可愛いとか思っちゃう訳で。



ああもう。銀さん決めました。

こうなったらしつこくしつこくつきまとって、そのうち絶対コイツの方から『好き』って言わせてペロリと頂いてやる。Sの本気をなめんなよ。そんでいつかドギツイSMプレイを・・・



「こらァ!!何かまた漏れておるぞ恐ろしい計画の端々が!!」


「あ、聞こえてた?」




覚悟しとけコノヤロー!!




Fin.




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