企画物
□金の卵 前編
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「今日はありがと、また会いに来てね。」
金時が甘い笑顔でそう言うと、女は『もちろん会いに来るわ金ちゃん』と、うっとりとした顔で答えた。
姿が見えるギリギリのところまで金時に手を振る客にニッコリと応えながら金時は、この姉チャンはもう少しお金持ってると思ったんだけどな、などと決して口には出来ない言葉をこっそり心中で呟いた。呟いた後で、そんなことを思う程に自分はもうすっかりこの業界に馴染んだもんだ、と今更ながらに実感した金時だ。
女達は、顔に分厚い化粧を塗りたくり、高価で派手な衣服で身を包んで金時に会いにくる。まるで金時に自分だけを見つめてほしいと言っているかのように。
そんな女達に応えるように、金時は決まって、可愛いじゃん、とか、奇麗だね、などという言葉をかけるけれど、それはあくまで金時にとってビジネスだ。
美しく着飾る女性達に魅力を感じない訳ではない。むしろいつも自分の為に精一杯着飾って会いに来てくれる女性達はやっぱり可愛いなあと思うし、そんな彼女達を金時は大切に思っている。けれどそれ以上に何かを感じることなどなく、金時にとって客は客、という意識しかなかった。
今日この日、店にやってくるある人物と出会うまでは。
先ほどの客を見送った後、店内に戻ると、金時は次の指名客が待っているテーブルへ・・・は向かわず、迷いなくバーカウンターへと向い、内勤に『いちご牛乳〜』と呑気に頼んだ。
その時、背後からマネージャーである新八が忙しそうにやって来て金時に声をかけた。
「あ、金さん次5番テーブルのお客様お願いしま・・・・・・ってちょっとォ!!何サボってんですか!!」
「んー?ああ、何って言われてもさ〜新八ィ、俺今日は酒一杯につきいちご牛乳飲まないと死ぬって星占いで言ってたからさ。」
「何が星占いですか!アンタそれ毎日言ってんでしょーが!!ふざけてないで早くテーブル着いてください!金さん待ちのお客さんまだまだたくさんいるんですから!」
「ハイハイ〜っと」
「いちご牛乳は置いて行ってくださいよ!!」
相棒のいちご牛乳と共にバーカウンターを立とうとした金時の背中から、即座に新八の声が降り掛かった。
新八は金時がいちご牛乳を飲むと決まって口うるさく注意した。新八曰く、いちご牛乳なんて可愛らしい飲み物でNo.1ホストとしてのイメージが崩れては困る、らしい。
ぶつぶつと文句を言いながらも仕方なくまだ半分以上残っているそのピンク色の液体を内勤に手渡し、金時は客の待っているテーブル席へと戻って行った。