原作設定シリーズ
□女を捨てて
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時は二月上旬。
冬は順調にその勢力を増し、かぶき町の住民達が忙しなく寒さ対策をし始めた頃。
俺は一体何をしているかというと・・・
「何してるアルか銀ちゃん。」
「のわああ!?」
イキナリ視界の下から聞こえてきた声に、不覚にも間抜けな声を出してしまった。このくそガキめ。人が考え事してる時に話しかけてんじゃねーよ。
「銀ちゃん、最近ずっと険しい顔してるアル。何かあったアルか?」
「何でもねーよ。ガキはクソして寝てろ。」
「レディに何てこと言うアルか。私はウンコもオナラもしないアル。ケツの割れ目もないアル。」
「いやどこのアイドルだよ。
・・・つーか今めんどくせーボケかますな。銀さん今ちょっとデリケートな時期だから。ほっといてくんない?」
目の前のチャイナ娘はまだゴチャゴチャとうるさかったけど、マジで俺はそれどころじゃない。てゆーか・・・
今ものすげー不機嫌なんだよオオオ!!
何故かってそれは、ちょうど二週間前まで遡る。
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「話とは何じゃ。」
「いや〜・・・話っつーか・・・」
俺は、吉原の中にある甘味屋に月詠を呼び出していた。
あのクリスマスの一件から一ヶ月間。
あらぬ気持ちを気付かされてしまった俺は、悶々とした生活を過ごしていた。
自覚する前まではそんなことなかったのに、この無表情サイボーグ女に会いたくて仕方なかった。
今まで会ってない期間、どうやって過ごしてたっけ?と疑問に思ったくらいだ。
『そんなに会いたいなら意地張ってないで会いに行けばいいアル。』
俺の落ち着かない様子を見兼ねた神楽から、呆れたようにそんな台詞が吐かれたのをきっかけに、ついに我慢の限界がきた俺は月詠をお呼出しした訳だ。
・・・けど。
「・・・・・・」
「・・・えーと・・・」
「・・・・・・」
月詠さんの態度がおかしいです。
さっきから目線も合わせようとしないで、ずっとそっぽ向いてひたすら紫煙を吸ってます。
いつも無愛想な奴ではあるけど、今日は何つーのかな…明らかに俺と向き合うことを避けてる。
・・・俺、何か怒らすようなこと言ったっけ?
「・・・あの〜・・・そんなあからさまに不機嫌になられたら、こっちも話しにくいっつーか・・・」
「……」
イヤ返事しろよォォォ!!
…とか言いたいけど、この重苦しい空気の中ではさすがに言えない。
どうしたもんか、と沈黙に身を任せてたら、
「…話をする気がないなら帰る。」
月詠が席を立って、その場から去ろうとした。
「ちょ!待て待て!!」
慌てて月詠の肩を掴んで引き止めた。
けど、相変わらず月詠はこっちを見ようとしない。
「・・・お前、どーしたの?今日おかしいぞ。」
「・・・銀時。」
「・・・何」
「・・・もう、わっちの前に姿を現すな。」
え?
一瞬理解出来なくて、固まってしまった。
掴んでいた肩を思わず離して、渇いた喉から何とか声を出そうと試みる。
「何、言ってんだよ…」
「……」
「あ、オイ!!」
月詠は俺の質問には答えず、颯爽とその場を立ち去ってしまった。
ホントは追いかけるべきなのに、さっきの月詠の言葉が頭の中をエコーみたく駆け巡っていて、出来なかった。
…という事態が二日前にあった訳で。