企画物

□宵闇に消える
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その女は、いつも突然現れる。

決まって月がよく見える夜に、必ず。

ある時は縁側に座って夜空を見上げていて、かと思えば俺の隣に座って妖しく微笑んでることも。



どうやら俺が知り合いから譲り受けた古い家は、とんでもないモンが住み着いていたらしい。



鮮やかな金色の髪に薄紫色をした眸、スラリと着流しを着こなす姿は、この世のものとは思えない程奇麗だった。

・・・って、この世のものじゃないんだから当然か。



「・・・お前さぁ、何でここに住み着いてるの」



俺はこの質問を毎日毎日、何度も繰り返した。

でも決まって女はそれには答えようとせずに、代わりにふぅ、と紫煙を吐き出すだけだった。



もしかしてこの世に未練でもあんのか。

それとも、ここで誰かが来るのをずっと待ってたのか。



いずれにしても、その悲しそうな眸の奥には何かが潜んでいる気がした。



今日も女は、縁側から月を見上げていた。

毎日毎日よく飽きねぇな、とぼやきながら、俺もその隣に座って、月を見上げてみる。

その日はちょうど満月で、真っ暗な夜空が明るい光で輝いていた。



ふと隣を盗み見てみると、女の目からは涙がぽろぽろと流れていた。



幽霊も泣くのか、とどこか冷静に考えながら、何故だかその姿がとても奇麗だ、と思った。



「・・・何がそんなに悲しいんだよ」


「・・・別に悲しくない」


「じゃあ何で泣いてんの?」


「わからない」



わからない、もうずっと前から、自分がわからない。



そう言って、女は涙を流し続けた。



ああ、やっぱりコイツの涙は奇麗だ。

頬に手を伸ばしてその涙を指で拭う。



ツ、と指が口許を撫でる。

濡れた眸が一瞬見開かれて、目が合った。

その時に沸き上がって来た感情は、自分でもよくわからなかった。

ただ、気付いた時にはその唇にそっと自分のそれを重ねていた。



「・・・・・・何のつもりじゃ」


「わかんねえ・・・」



何だかのぼせたような気分になりながら、もう一度口付ける。

上唇、下唇を順番に甘噛みすると、女からは艶のある息が漏れた。



――ダメだ、変な気分になりそうだ。

意識が遠いところに飛んでいきそうな。

そんな、変な気分。



俺、死ぬのかな。



頭の端でそんなことを考えながら、ひたすら深く深く、口付け合った。



月明かりに照らされた艶やかな身体を組敷いて胸元に手を這わした時、女は妖しく微笑む。



「・・・わっちと共に、来るか?」



――どうしようかな、来てほしい?



心の中でそう答えた。言葉にする代わりに、ふ、と口許を歪める。



次第に遠くなる意識の中で、再び夜空を見上げてみる。



もう月は出ていなかった。




fin.


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