その他
□妙の憂鬱
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「こんにちはー、新ちゃーん?」
ある晴れた日の午後、妙は手作りの卵焼きを片手に万事屋を訪ねた。
「あ、いらっしゃい、姉上。・・・」
新八の視線が卵焼きに移った瞬間何故だか顔を引きつらせたような気がしたが、きっと気のせいだろうと思うことにした妙。
そこでいつもそこにいるはずの人物がいないことに気がついた。
「アラ?銀さんは今日仕事?」
「ああ、銀さんなら今吉原に行ってますよ。」
「吉原に?」
妙は新八の言葉を思わずそのまま聞き返してしまった。
――最近、銀さんは吉原に出向くことが多い。
それも新ちゃんの口調からして、仕事絡みで出向いている訳ではないみたい。
そういえば以前、道端で銀さんに会った時も、『これから吉原に行く』とか言って浮かれてたわね・・・
遊女の皆さんと仲良く合体でもしてるのかしら。何だか知らないけど、銀さんは吉原では『救世主様』とか呼ばれてモテてるみたいだし・・・
そう考えると、何やらふつふつと腹が煮えくり返る思いがした。
「新ちゃん。」
「ハイ?」
「いくらあの銀髪天パがマダオだからって、そんないやらしいところに好き勝手に遊びに行かせてたらダメじゃない。このまま放置してたらあの人、今よりもっと汚れた大人になっていくわよ。」
「え・・・?いや、誤解してますよ姉上。銀さんは・・・」
「銀ちゃんはツッキーに会いに行ってるアル。」
ソファの方から神楽の声がした。
「・・・ツッキーに?」
「あ、そうか。姉上、まだ知らなかったですよね。何があったか知りませんけどね、あの二人付き合い始めたんですよ。」
「――――、」
一瞬、妙は頭の中が真っ白になった気がした。
それは驚きからくるものではなく、胸が締め付けられるような、言い様の無い感情からくるものだった。
『ツッキーってば、あんなマダオのどこに惚れたアルか』『それは僕にも史上最強の謎だよ』という子供達の声が、どこか遠くで聞こえているような気がした。
そうだったの、銀さんがツッキーと・・・
「・・・姉上?どうしたんですか?」
急に黙り込んでしまった妙を心配する新八の声に、妙はふと我に返った。
「あ・・・、な、何でもないわよ?じゃあ、私はこれで・・・」
「え?あ、ちょっと姉上?」
妙は何も考えられないまま、今来たばかりの万事屋を足早に去って行った。