その他
□Runner's High!!
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新しい年が明けてから4時間程たった頃、神楽と新八はかぶき町の近く神社へ初詣に来ていた。
ちなみに銀時は予想通りというか、『参拝の為に金払うぐれーならパチンコ行くわ』と、一人万事屋で寝正月を過ごしている。
そして今、二人は新年早々一大勝負に挑もうとしていた。
「新八ィ、覚悟は出来たアルか。」
「・・・・・・」
「この勝負に負けたら私たちの明日はないネ。銀ちゃんに合わす顔がないアル。」
「・・・・・・」
「ビビってるアルか?・・・大丈夫アル。どんなに邪魔されようとも、道はまっすぐ続いてるアル。恐れずに前を見て突っ走ればいいだけネ。」
「・・・あの、カッコイイこと言ってるところ悪いんだけど、コレって年男決めのレースだよね?神楽ちゃん、女の子は普通に出れないでしょ。」
そう。二人が今まさに挑もうとしていた勝負とは、この神社で毎年行われる、その年の年男を決めるための『玉取りレース』というものであった。
何故『玉取り』なのかというと、このレースは神社の入り口からスタートし、一番早く境内の中にある金色の玉を取った男がその年の年男の称号を与えられる、というルールであるからして。
もちろん女の子である神楽には出場権はないはずだったのだが、その話をたまたま小耳に挟んでしまったこのチャイナ娘にとっては、この上なくおもしろそう祭り事だったようで。
祭りの主催者を脅して漸く出場権を得た、という訳である。
「何言ってるアルか!玉を取れば年男の称号だけじゃなく豪華温泉旅行の招待券がもらえるアルヨ!!こんなに重要な勝負をお前みたいな玉なしヤローには任せられないアル。」
「イヤ玉なしはそっちだろォォォ!!しかも何で定春に乗って行こうとしてんの!?普通にルール違反しまくりだろーがァァ!!」
「さっきあそこのオジサンに聞いたら、動物オッケーって言ってたアル。」
「イヤあのオジサン明らかにたこ焼き屋じゃん!!このレース関係ないじゃん!!絶対適当に返事されたよね!!」
この型破りの少女にツッコまずにはいられない新八だったが、当の本人は全く気にしていない様子。
そんなボケとツッコミを繰り返してるうちに、何だかんだでスタートの時間が来てしまった。
「ではいきますよー!位置について〜・・・よーい、」
パアンッとピストルの音が響くと同時に、一斉に男達+巨大犬に乗った少女が走り
出した。
「フハハハハ!!楽勝アル!」
当然、定春に股がった神楽は先頭を突っ走って・・・いるはずだったのだが。
高らかに笑っている神楽の横を、何か大きな塊が一瞬にして通り過ぎて行った。
「何ィィ!?」
予想外の展開に驚きの声を発した神楽は、通り過ぎた塊によーく目を凝らす。
よく見るとそれは、14、5歳の、神楽とそう年が変わらないであろう少年で。
周りの大人達や、定春に股がった神楽をものともせず、恐ろしい程の早さで駆け抜けている。
このままでは温泉旅行が、と危惧した神楽+定春は、負けじとスピードを上げ、その少年の真横につくことに成功した。
「オイお前!このかぶき町の女王の私に勝てると思ってるアルか!!」
「わ!誰だお前!てゆーか何で犬に乗ってんの!?反則だろ!」
「ガキがうるさいアル!大人には子供に言えない色々な事情があるアル!」
「お前も見たところガキだろォ!!くっそー、こんなブサイクに負けてたまるかァァ!!」
「誰がブサイクアルかこのクソガキィィィ!!」
「ぐええぇ!くるし・・・っちょ、この人レッドカードですよォォォ!!」
少年の胸ぐらを掴み、引きずるように前へ進む神楽。
一方で少年は、そんな反則しまくりの少女を訴えようと必死で叫ぶが、どうやらその声は審査員には届かなかったらしく。
仕方なく自力でその手を振りほどくと、吐き捨てるように言った。
「俺はどうしても玉をとらなきゃいけないんだ!!そうしなきゃ、ばあちゃんが・・・」
そう言いかけた少年は、やはり思い留まったのか思わず口をつぐむ。
その様子に神楽も呆気にとられ。
「・・・オイ。そこまで出かかったなら最後まで吐くアル。ゲップが喉につまったみたいで気持ち悪いアル。」
神楽の言葉に後押しされ、少年は走りながらもゆっくりと話し始めた。
「実は・・・俺のばあちゃんはもう長くない。長いこと重い病気で・・・。この間、医者にあと1年の命だって言われた。」
「・・・・・・」
「だからせめて・・・ばあちゃんと一緒にみんなで温泉旅行に行って、楽しい思い出作ってやりたいんだ!だから、この勝負は絶対俺が勝つ!」
いかにも詐欺師が作りそうな話だ、と思った神楽。
だがふと少年の目を見ると、その目にはにはうっすらと膜が張っていた。
しかし、その目はしっかりと前に続く道を見据えている。
「・・・フン、お前みたいなガキに玉取れる訳ないアル。」
「何だと!?だからお前もガキ・・・」
「こんな所で油売ってるガキに玉は取れないって言ってるアル。
本気で玉取りたいなら、私のような美女相手にナンパなんてしてないで早く行くアル!まったくケツの穴の小さい男アルな!!」
イキナリ一気にまくしたてられた少年は、「ナンパじゃねぇ!」と激しくツッコミを入れたかったが、あいにくその言葉に励まされてしまったため、神楽に向かってコクリ、と頷くとそのままスピードを上げて走り去って行った。
「まったく・・・男ってバカアルな・・・」
そう呟くと、神楽は再び定春を走らせ、少年の後を追った。
**
その後、少年を追い抜こうとする男達を神楽が定春と共に片っ端から吹っ飛ばした効果もあり、少年は見事その年の年男となった。
その嬉しそうな姿を神楽が見守っていると、やっと二人に追いついた新八が息を切らして現れた。
「はあ・・・はあ・・・っ神楽ちゃん、玉取れた!?・・・って、アレ?玉持ってない・・・てことは・・・」
「まだそんなこと言ってたアルか?・・・なんかお前が来ると感動的な空気が台無しアル。消えろメガネ。」
「ちょ、何それェェェ!!言っとくけど僕、神楽ちゃんがこのレース出たいってうるさいから仕方なく付き合ったんだからね!?・・・って聞いてる!?」
「あ、チャイナさん!」
すると、二人のもとに先ほどの少年が玉を持って近寄ってきた。
「ありがとな!お前のおかげで玉取れたよ!・・・あとブサイクとか言って悪かったな!」
へへ、とバツの悪そうに笑うその少年は、神楽の前に手を差し出した。
神楽もその手を握り、二人は固く握手を交わした。
「ばあちゃんによろしくアル。いい男になれヨ。」
「・・・いい男になったら、また会ってもらえる?」
「・・・え?」
少年からの思いがけない言葉に、らしくもなく少し頬を染めてしまう神楽。
そんな神楽の反応をおもしろそうに笑って、少年は「じゃあな!」とさわやかに去って行った。
そして、そんな二人を横でずっと見ていたにも関わらず、完璧に無視され続けた地味キャラ新八。
「・・・あの、神楽ちゃん?あの人、誰?」
「な、何でもないアル。ホラ、定春行くヨ。」
「ちょっと待ってェェ!少しぐらい説明してくれても・・・」
「・・・お前ってつくづく残念な奴アルな・・・」
「だから何ィ!?何があったの!?」
その後も必死に神楽に詰め寄る新八だったが、ちょっといい気分の神楽にそんな声は届くはずもなかった。
fin.
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