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□あつく、ただ、あつく
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「今日のおやつはボーロらしいよ!」


その声と共に何も見えない程の暗闇に一筋の光が射し込む。

光の筋は段々広がっていき、目の前が光で一杯になり私は目を細めた。


嗚呼、今の表現は少し可笑しかった。


実際に私には目というものは存在しない。

何故なら私は・・「尾浜先輩、またその湯呑みですか?」



そう、私は湯呑みだ。

世間の人間達が飲み物(主に茶)をそそぐ容器の名称だ。


しかしそこらで大量生産されている安物ではない。

一応それなりに名の知れた職人が造ったそれなりに値打ちのある湯呑みだ。

しかしその事を彼、「尾浜」が知ってるかは謎だが。



今現在、私の持ち主である「尾浜」との出会いは四年と半年位前の話である。

まず私という存在がこの世にうまれたのは、「尾浜」と出会うよりもかなり前の事。

今彼が身を置いている忍術学園の学園長に買ってもらう、二週間程前に私はうまれたのだ。


学園長に買ってもらったのが、二桁の年程昔の話なので人間の歳でいえばいい歳こいた婆さんということだ。


まぁ、それはあくまで「人間の歳でいえば」の話なので湯呑みの中ではまだまだ若僧だ。

人間にとっての一歳とは私たちにとっての何歳かとか、そこらへんを詳しく話したいが、そうゆう頭を使う話はまた今度しようと思う。


私に使う頭など存在しないが。


このように少し年期ものである私だが、職人によって丁寧につくられ丹念焼かれたので(無駄に)丈夫な体をしている。


なので生まれてこのかた数十年、私のからだには傷ひとつヒビひとつない。

もちろん耐熱性にも優れている。

熱湯など私からしてみればぬるま湯に等しい、熱々の茶など朝飯前だ。


・・・なんか自分の自慢話になってきて恥ずかしいな。



「尾浜先輩は何故いつもその湯呑みを使っていらっしゃるのですか?」



「尾浜」の後輩である「庄左ヱ門」はそう問うた。

そんなの私がたまたまお前ら学級委員長委員会が使う部屋の食器棚に置いてあって、

たまたま「尾浜」が使おうとする時に、偶然に手元付近に置いてあったからだろ。


そんな偶然が多々重なった結果だろう。

何故彼はそんな当たり前の問いを口にしたのだろうか。


私がそんな事を考えていると、「尾浜」は丸く大きめの目を細めて(愛しい我が子を見詰めるように)口を開いた。









「俺がこの湯呑みに一目惚れしたからだよ」






瞬間、私の回りだけ時間が止まったように思えた。







「なんでか分からないけど、この渋い色地に小さな桃色の花が描かれているところとか

この何とも言えない手に合う形とか、凄く綺麗だなって思ったんだよ


なにより一目見てこれが良いって思った」




そう言って「尾浜」は私を愛しそうに撫でた。


初めて知った、そんな事。

というよりいつからそんな洒落たことを言うようになったのか。


そんなことを思っている私の身体は今まで感じたことのない、それこそ耐熱性など無意味に感じる程の熱で侵されていた。




あつく、ただ、あつく



私は尾浜に恋をしたそうだ。



あなたの口に愛を運ぶ様に提出させていただきました!


今まで挑戦したことのない食器主でしたが、楽しく書かせていただきました!!

決して報われない一方通行の愛、すごく好みです。


私的には叶わない恋のもやもやと葛藤する夢主の様子を書きたかったのですが、まさかの恋愛感情に全く気付いてないという状態から初めてしまいました・・無念。

なんともぐだぐだ感の否めない文になりましたがそこは眼を瞑っていただければ幸いです。


素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!



癪なのでおまけ→



 
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