DREAM

□あいつの隣
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うるさいくらいに降り続く雨の中


傘もささずに少女はただ曇天の空を見上げていた


その姿はあまりにも儚げで弱々しくて、今にもくずおれそうだった


不安になって俺は思わず手を伸ばした


だけどその手は数10メートル先の彼女には届くはずもなく空を切っただけだった

短い髪の毛から水滴が落ち彼女の頬を伝う


いや、その頬に伝うのは雨の滴だけではない。その瞳は遠くを見つめていた


遠い、どこかちがう場所にいるアイツを見ていた


ガキの時からそうだ


こいつはアイツしか見てないんだ


なんだか無性に悔しくて腹立たしくて、あいつのあんな顔見たくなくて声をかけた


「なーにやってんのお嬢さん。」


彼女の瞳が一瞬揺らいで俺に向いた


「銀、時」


「よぉ、紅。んなトコいると風邪引くぞ」


「うん…」


紅はうつむき加減で頷く


「心配すんな。高杉なら大丈夫だ。いつかきっとお前を迎えに来てくれるよ。」


そう言うと紅少し笑って俺の顔を見上げた


「そうだね!」


嗚呼、なんてきれいに笑うんだろう


それは残酷なほど美しく華やかに


「…帰ンぞ」


俺は胸の痛みを抑えて言った


俺が差し出した傘を紅は「ありがと」と笑って受けとると俺の隣を並んで歩き始めた


その小さな背中を、小さな身体を何度抱き締めたいと思っただろう


一人震える紅を何度支えてやりたいと思っただろうか


なァ?なんでだよ


そんな苦しんでンのになんでそこまでアイツのこと想えるわけ?


あんだけひどいことされて傷ついてもなんでアイツを信じれるわけ?


心のなかで紅に呼び掛ける


悔しい。


一番近くにいるのに紅は遠くにいるようで。


ああ、どうせならこの気持ちも雨と一緒に流れていけばいいのに


それでも、紅の笑顔を一番近くで見れるならなんだっていい


どんな苦しみだって俺は背負っていける


なア高杉?


紅はオメーのことずっと待ってんだぞ?


紅にあんな顔させてんのはオメーだろ


さっさと迎えに来てやれや…と言いたいとこだが今回ばかりはオメーに感謝してらァ


オメーがいねー間は俺が紅の側にいれるんだからな


だからよ…しばらく帰ってくんな


できることならずっと…


紅の側にいたい


あいつの隣
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