eva

□外伝:4月 春に芽生える心
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春に芽生える心


4.1







春休み
あと少しで学校も始まろうとするその日、僕こと碇シンジは人生最大の危機を迎えていた


まず今朝(正確には昼)、僕は毎度の休みの間同様に午前11時に起床し、朝食兼昼食(ブランチってやつだね)を食べる
あとはのんびりしてようかなんて思っていた矢先、その危機とやらはやってきた


いきなり居ないと思っていた髭眼鏡こと父さんから一枚の紙を渡されたのだ
ついでに高そうな万年筆も

その渡された紙には婚姻届としっかりと、この上なくしっかりと記されていた
相手の欄にはあまり思い出したくない幼なじみの名前が綺麗な愛しさの籠もった字で書かれていた


「…あの…」

「なんだ」

「これって、その…婚姻届…ってやつだよね」

「そうだ」

髭眼鏡はいつにも増して無愛想である
いや、大差はないかも知れないけどさ


「僕にコレに記入しろっていうの?」


「そうだ」


「…無理だよ!そんなの!!できっこないよっ!!」


「記入するなら早くしろ。でなければ帰れ!!」

「………」

いい加減このおっさんに付き合うのに疲れた僕はおもむろに携帯を取り出して、番号をプッシュした


「あ、もしもし?母さん?」

「Σ!?」


あ、父さん焦ってる



『あらシンジ。どうしたの?』

「あ、ごめん、忙しかった?」

『大丈夫よ。シンちゃんからの電話ならいつだって大歓迎なんだから』

「じつは父さんが…かくかくしかじかで、かくかくしかじかなんだけど、母さんなんとか言ってくんない?」

「ユ…ユイ…?わ、私は…!!」


碇家のゴッドマザーたるユイにはいくら893みたいなゲンドウでもタジタジなのだ

僕はこの瞬間、勝利を確信した


『…』


「?母さんどうしたの?」

『シンジ!』

「は、はい!」

『書いちゃいなさい!』

「はい?!」


いつの間にか髭眼鏡はテーブルについて腕を組んでいつものニヤリ笑いをしていた
正直キモいので止めて欲しい


「か、母さん!何言ってんのさ!!こういうことを疎かにするからうちみたいに…うちみたいな家庭になるんじゃないか!!」


そこまで携帯に向かってこれでもかと叫んだ瞬間、僕は自分の過失を知った


「『…』」


「あ…ごめん…なさい…」

サングラスと受話器の向こうで瞳が微かに歪むのを感じた

『…いいのよ。シンジは間違ってないわ。謝らなくてもいいの』

「ごめん…なさい…」

『いずれはちゃんとどうにかするから。ごめんなさい、シンジ。エイプリルフールだからって、ゲンドウさんも人が悪いわよね。それに悪ノリした私も同罪だけれど。ごめんなさいね』

「…え?」

『あら?気付いてなかったの?』


そういえば今日って…
なんだ…
ついに本気で父さんの気が触れたのかと思った

『じゃ、しっかり勉強するのよ。またね』

「あ、うん」

ピッ

「すまなかったな…シンジ…」

電話を切った僕に父さんはそれだけ言うと、婚姻届を捨て万年筆を持って自室に引っ込んだ


こうして僕の今年のエイプリルフールは途方もない疲労感とちょっと罪悪感とその他少々で幕を閉じた




















『…ということだ。すまなかったな』


「いえいえ、大丈夫ですよ。おじさまもしっかり頑張って下さいね?」

『む…。…あぁ。それではな』

「失礼しまーす!」

ピッ

「はぁ…。やっぱり忘れちゃったかぁ」


















[やくそくだよ?]

[うん!]

[おおきくなったらわたしがしんちゃんのおよめさんになる!]

[うん!ぼくはまなちゃんのだんなさんになるよ!]

[やくそくだよ!]

[やくそくだよ!]















マナはベッドの上で膝を抱え込む

「まだ諦めないんだから!」

こうして霧島マナのエイプリルフールは過ぎ去っていったのだった





得意の絵を描いてあげる
僕の右手と水彩絵の具で
丘の花は黄色にしよう
その方が見つけやすいから

三日月がひかる頃
この絵と同じ丘で待ってるよ
明日僕らは大人になるから
ここで思い出を作ろう

神さま小さな二人に
今夜だけ魔法を唱えてくれ
僕らが大人になっても
この丘を忘れぬように

昨日の丘で一人きり
あなたが来るのをひたすら待った
くるはずないよわかってた
僕はまだ震えてる

ED
くだらない唄
by bump of chicken

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