短編

□愛を込めて
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愛を込めて


【置いて行かないで…。あなたが居なくちゃ私…】


【きっと…きっと帰ってくるさ…。だから…】


ぼ〜。


「うっ…ぐすっ…ジョニー…うぅっ…。…遊戯、ティッシュ…。」


「はい、ママ。」


ずびー。


さっきからずっとママはこの調子だ。

レンタルしてきた恋愛洋画を見て次々とティッシュを浪費していく。

ボク的には恋愛映画よりもゲームがしたいんだけどなぁ…。

退屈だぜ〜。


『……。』


ふともう一人のボクを見れば、真剣な顔で食い入るようにテレビを見つめていた。

…以外とこういうの好きだったりするのかな。

さっさと部屋に戻りたいんだけど、ママが話題作だから遊戯も見ておきなさいってうるさいんだ。

ゲームばかりするくらいならって。

気がつけば、恋人が旅立ち、主人公は部屋で一人っきり。

あの人が居ない日々なんて…とか言いながら半廃人生活を送っているシーンになっている。

興味無いものってどうしても集中できないよね…。


【コンコンっ】


【誰…?】


怠そうに玄関のドアを開ける主人公。

そこには、段ボールが一つだけポツンと置かれていた。


【何かしら……。ッ…!】


中には薔薇の花束と、愛を込めて。と書かれたメッセージカード。

その下には真っ白なウェディングドレスが入っている。

ドレスを見て主人公が絶句していると、影から恋人が出てきて…。


【待たせたね。結婚しよう。】


「うおぉぉう!ジョニーぃぃ!」


そしてスタッフロール。

物語が終わっても、ママの興奮は治まりそうにない。

っていうかママ…、男泣き入ってるよ…。


「あぁ…良い話だったわぁ…」


「そ、それは良かったね…。ボク、そろそろ寝るから部屋行くよ…」


「あ、ちょっと、遊戯!」


ボクはそそくさと部屋に戻った。

あの映画について語られたりしたら堪ったもんじゃないもの。


「あーあ、何か疲れたね。もう一人のボク。」


『……。』


「…もう一人のボク?」


『あ…なんだ?相棒。』


「なんでもないけど…どうしたの?ぼーっとしちゃって。」


『いや…さっきの映画について考えていたんだ。』


「好きなの?ああいうの。ボクは苦手だぜ〜…。」


『そうなのか。』


笑ってボクの頭を撫でるもう一人のボク。

…答えになってない気がする…。


「ふぁ〜…眠いよ…明日休みだし、ゆっくり寝ちゃおうよ。」


『ああ、そうだな。…相棒、明日なんだが、午前中だけ身体借りてもいいか?』


珍しいな、もう一人のボクがデュエル以外で表に出たがるなんて。


「勿論だよ!じゃあ、早起きしなくちゃ!」


『いや、相棒。相棒は寝ていてくれ。すぐに済むから。』


「えー、ボクも起きて一緒に行くよ。」


『相棒が起きられたら、だな。』


不敵に微笑むもう一人のボク。

これは、絶対起きないと思ってるな〜!


「よーし!絶対起きてやるぞ!そうと決まったら早く寝ないとっ。お休み、もう一人のボク!」


『お休み。ゆっくり寝ろよ。』


もー!絶対絶対起きてやるもんねー!
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