短編

□呼べない名前
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呼べない名前


オレが旅立ってからどれだけの時が過ぎたのか。

恐らく現世では結構な時間だと思う。

相棒の涙が今でも忘れられない。

別れたく、なかったんだ。

世の全てを敵に回してもお前と共に在りたいと思っていた。

その想いは時が経つにつれて日に日に膨れ上がる。

全て壊れてしまえば良い。

お前以外何も要らないんだ。

そんな想いばかり頭を過ぎって…。

オレは、狂っているのかもしれないな。






――あえない世界






お前と会えないこの冥界は、色がない。

喜びもなく、哀しみもない。

虚無感だけが支配する世界なんだ。

何をしても虚しいだけ。
相棒が居ないだけでオレはこんなにも墜ちてしまった。

君は帰らなきゃいけないと言ったお前の言葉すら、憎くなることもある。

相棒はこれを望んでいたのか?

オレをこんな牢獄に閉じ込めて。

虚しく、寒い牢獄に…。

マハードやマナ達はもう居ない。

消えてしまった。

オレを置き去りにして。

オレには何も見えなくなった。

何も聞こえなくなった。





――いつからだ?






分からない…考えられない…。

相棒はオレを捨てた。

お前に必要とされないオレに存在価値などない。

考える権利もないんだ。

オレを見てくれ、相棒。

オレに触れてくれ。

オレを見つけてくれ。

声を聞いてくれ。

見捨てないで…。

オレはお前以外何も要らないから…。

相棒もオレだけを見てくれ。

笑うお前も、

涙するお前も、

全てオレにくれないか。





――しかばねになってでも






お前はオレの為に死んでくれるだろうか。

オレはお前の望むことは何でもしよう。

相棒はどうだ?

オレが望めば仲間を手に掛けてくれるか?

オレを満足させてくれ、相棒。

嗚呼、相棒。

オレはどんどんおかしくなっていく。

分からない。何も分からないんだ。

何がオレで何がお前なのか。






――ては、オレの手は何を掴んだ?






オレの真に求めるものは何だ!?

思い出せ思い出せ思い出せ…!

相棒はそんなやつじゃない!

オレの敵は世界でも、ましてや相棒でもない。

敵は、オレ自身。

それに気がついた途端、視界が明るくなって、音も聞こえた。

オレは、馬鹿だ。

自分で目を閉じて耳を塞いでいたに過ぎなかった。

マハードも、マナも、シモンもすぐ側にいたのに。

なぁ、相棒。

一つだけ、オレの中で変わらない気持ちがある。

お前に会いたい。

今まではずっとお前を待っていた。

それじゃ駄目だったんだ。

自分で歩み出さなければ、何も変わらない。

オレは逃げていたんだ。





――ルールを守らずに






オレは、お前に会いにいく。

相棒がオレの帰るところだ。

この光を辿れば辿り着けるだろうか。

相棒のもとへ。


「留守を頼む。」


オレがお前のもとへ帰って、生を全うしたらここに2人で還ろう。

さぁ、オレは歩み出すぜ。

この光のロードがお前に続くと信じて。








「会いたかった…相棒。」


「もう…一人のボク…?本当に、本当に君なの…?」


「あぁ…、オレだ。」


初めて抱き締める相棒は温かくて。

涙が零れそうになった。


「ボクも…っ会いたかった!君が居ない間、寂しくて…苦しくて…。」


「相棒…。」


「おかえりなさい、もう一人のボク!」


「ただいま。相棒。」


ここに居ても良いと知った途端、目頭が熱くなった。

この胸にあるメッセージは言わないでおくぜ。

これ以上情けないオレは見せられないからな…。







〜あとがき〜
どれだけ情緒不安定なんだ(笑
禁じられた名前の闇表verでした!
今回も縦読みマジックです(笑

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