短編

□チョコとマシュマロ
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チョコとマシュマロ


『相棒、何をしてるんだ?』


「チョコレートを溶かしてるんだよ。」


湯煎にかけたチョコレートをスプーンで混ぜる遊戯。


『バレンタインでもないのに、か?』


「バレンタイン以外でチョコ溶かしちゃいけないってことは無いんだよ。もう一人のボク。」


時は一月終わり。

人が目の前に控えたバレンタインに話を咲かせる時期である。

しかし、バレンタインの菓子を作るにはまだ早い。


「大体、日本ではバレンタインは女の子がチョコレートをあげる日で、何でボクが作るんだよ〜!」


『…悪かった。』


「なんで謝るの?もう一人のボクって変なところで几帳面だよね。…よし!チョコ溶けたし、心の部屋行こっか。」


『チョコレートは良いのか?』


「心の部屋で一緒に食べようと思ってさ!」






「はい、爪楊枝。」


「…相棒。何故わざわざ心の部屋に…?」


爪楊枝を受け取りながら《遊戯》が疑問をぶつけた。


「勿論、君と一緒に食べたいからに決まってるじゃないか!」


それに対し、遊戯もにこにこしながら答える。


「さっ、もう一人のボク!爪楊枝にマシュマロを刺して、チョコ付けて…食べよう!」


「ああ。」


とろりとマシュマロにチョコレートを付ける2人。

それを口に入れて美味し〜と喜ぶ遊戯。


「美味しいね!もう一人のボク!」


「少し甘過ぎるけどな。」


笑って答える《遊戯》はマシュマロを少しづつ囓って食べていた。

ボウルに入ったチョコレートをたっぷりと付け、一口で食べる遊戯とは正反対の食べ方である。


「この甘さが堪らないんだよ〜!」


ひょいっぱくっ


「相棒、あまり飛ばすと後から口の中の甘さが大変なことになるぜ。」


がじっ…もぐもぐ…


「………。」


「どうした。」


「もう一人のボク…囓って食べるから口がチョコ塗れだよ〜。」

《遊戯》の顔を見て遊戯がケラケラと笑う。


「そういう相棒こそ、付け過ぎで口の周りにチョコレートがたっぷり付いてるぜ。」


《遊戯》もまた静かに笑った。


「えっ嘘ぉ!?」


《遊戯》の言葉に遊戯が急いで口周りを拭いた。

拭いたものの、白い肌に少しだけチョコレートが残ってしまっている。


「じっとしてろよ…。」


残ったチョコレートを器用に親指で拭う《遊戯》。

そして、自身も口の周りを丁寧に拭いた。


「ありがと〜。」


「気にするな。」


また2人はもきゅもきゅとマシュマロを食べ始める。


「もう一人のボク、一度思い切って一口で食べてみたら?ほら、あーん。」


「ん、ああ。…あーん。」


「どう?どう?結構いけるでしょ。」


目をキラキラさせて問う遊戯に、《遊戯》は少しだけ顔をしかめた。


「チョコレート付け過ぎだぜ…相棒…。甘い…。……オレもお返しだ。口を開けろ、相棒。」


そう言う《遊戯》の爪楊枝に刺さるのは、これでもかと言わんばかりにチョコレートが滴るマシュマロ。


「ボクはこれくらいじゃ音を上げないよ!あーん。」


「まだだぜ、相棒。そのまま口を開けていてくれ!」


「ン…?……んがっ!!」


開いた遊戯に《遊戯》が次々とチョコレートを付着させたマシュマロを詰め込んでいく。

その素早い動作に遊戯も目を回すしかなかった。


「もっぐもぐ…もーひほひのほふっ!いへふひ〜!」


大量のマシュマロを噛んでは咀嚼し、噛んでは咀嚼し…。

無論、遊戯の口はチョコレート塗れになっていた。


「もう一人のボク!ズルイぜ〜!」


ごしごし手の甲で口を擦る遊戯。


「はははっ悪かった悪かった。ほら、手じゃなくティッシュで拭いたほうか良いぜ相棒。」


<遊戯>が差し出したティッシュで遊戯が口周りと手を拭く。


「あっ、取れない…。」


無意識的に手の甲に薄く伸ばされる形になったチョコレートが、外気に触れて固まってしまったのだ。


「見せてみろ。」


「うん。」
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