短編

□愛を込めて
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起きた時、窓の外の太陽はすっかり上がりきっていた。

ちゅんちゅんなんて爽やかな鳥の声はもう聞こえない。


「………。」


『おはよう、相棒』


今日も腕組んだ立ち姿がキマってるね。もう一人のボク。

本当、何させても格好いいし、優秀だし。

そうだよね。ボクがもう一人のボクの読みに勝てるはずないんだよね…。


「一応聞くけど…今何時?」


『1時24分だな。PMで。』


はい、正確な時間をありがとう。


「用は済んじゃったんだよね?」


『ああ。』


午前中なんてとっくに過ぎてるもんね。


「は〜ぁ…。」


起きられなかった…。折角もう一人のボクがやりたかったことを一緒に出来るチャンスだったのに…。


『そう落ち込むな、相棒。今回はオレがたまたま勝っただけさ。』


負けたからって凹んでるわけじゃないんだけどなぁ…。

そこがもう一人のボクらしいっていうかなんていうか…。


「ところで、君はどうしてそんなところで突っ立ってるの?」


座れば良いのに、机の前でずっと腕組んで一歩も動かない人を見れば、誰だって思うよ。


『良い質問だ。相棒。』

満面の笑みを浮かべてゆっくりと動いたもう一人のボク。

あれ?机の上が赤い…。


「これって…薔薇?」


そう、ボクが余程の記憶違いを起こしていなければ、これは薔薇の花束。

しかもご丁寧にメッセージカード付き。


『相棒に、日頃の感謝と…。』


カードの内容は勿論…。


「『愛を込めて』?」


『ただの愛じゃない。花言葉の通り、情熱的な愛だ。』


さ、流石ロマンチスト…。そんなクサい台詞をさらりと…。


「あ、ありがとう…。君、余程あの映画が気に入ったんだね。」


『愛しい人に花を贈るところだけな。』


その割りには結構ガン見してたと思うけど…。こんな時にあまりケチつけるものじゃないよね。

嬉しいのは本当だし。


『もしも…オレが遠くへ行くことになったとしても、必ず帰ってくる。きっとなんて曖昧なことは言わないぜ。』


何か、一瞬胸が騒いだ気がしたけれど、気のせいだと思うことにした。


「ずっと、一緒だよ。ボクも君から離れたりなんてしない。」


そう言うと、もう一人のボクは少し驚いたみたいで。


『ああ、そうだな…。受け取って、くれるか?』


「勿論さ!本当にありがとう。もう一人のボク。」


『それから…』


「ん?」


『座ってもいいか…?ずっと立ちっ放しで足が…。』





もう一人のボクの話だと、ボクに花束を渡すまで4時間以上も立ち続けたらしい。

薔薇の御礼にボクは心の部屋でもう一人のボクに城之内君直伝のマッサージを施してあげることになった。







〜あとがき〜
闇→表みたいになっちゃった…。
花束のお金はどうしたとか、あの半透明状態で足は痺れるのかとかつっこみ所満載ですがスルーしてあげて下さい…。
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