短編

□頭痛
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僕の言葉に律義に出て行ったバクラの声が聞こえる。


「おい器。宿主は休みだ。…ア゛?学校に決まってんだろうが。……うるせぇ。オレはサボりだ!」


遊戯君に電話してるみたい…。

欠席は普通学校に電話するもんだよ…。


「……宿主、着替えたか?」


電話が終わったらしいバクラが扉越しに訊いてきた。


「…終わったよ。」


扉が開いて、バクラが体温計を持ってくる。

…よく見つけたね。


「測れ。」


もう何も言うまい。

抵抗すればするだけ無駄だし、頭痛がぶり返すしで良い事なんて無いから…。

体温計を受け取って、脇に挟んだ。


「……頭はまだ痛むか?」


「…今は大丈夫…。」


何考えてるか知らないけど、こうなったらとことんまで策に嵌まってやる。


「そうか。」


バクラのその言葉から、体温計が鳴るまで沈黙が続いた。


ぴぴぴっぴぴぴっ


気まずい沈黙を破ってくれた体温計を取ろうとした矢先…。


「ぅわっ!ちょっと!」


服の中に手を突っ込まれて体温計を奪われた。

…別にそんなところで盗賊発揮しなくていいから。


「…38.5か…。熱あるじゃねぇか。」


そのままブツブツ言いながら寝室から出て行ってしまうバクラ。






「…………あれ…僕…いつの間に寝ちゃってたんだろう…。」


ふと目が覚めて時計を見てみたらもうお昼だ。

起き上がると額からタオルが滑り落ちる…。


「冷たい…。」


そのタオルを拾い上げてもう一度額に当ててみた。

冷たくて気持ちいい…。


ガチャ


「起きてたのか。宿主。」


氷水の入った風呂バケツを持って、バクラが入ってきた。

…エプロンを来て、髪を縛った状態で…。


「ぷっ…くくく…。」


「な、何笑ってやがる…。」


「くくくっ…だって…その格好!似合わない〜!」


指を差してやれば、やっと気付いたようで、声を荒げてきた。


「う、うるせぇ!大人しく横になってろ!」


「はいはい。…っふふ。」


再び横になった途端、タオルをひったくられた。


「あっ…。」


氷水にそのタオルを入れて絞り、また額に乗っけられる。


「………もう少し起きてろよ。」


寝ろと言ったり、起きてろと言ったり、今日のバクラは変だ。

…まぁ、いいけどね…。

それから程無くして、おぼんを持ってバクラが戻ってきた。

おぼんには小さい土鍋とコップと、ペットボトルのスポーツ飲料。それに薬。


「食え。」


土鍋の中身はおじやだ。

なるほど。

バクラはこれを作る為にエプロンを着ていたわけだったんだ。


「いただきま〜す。」


レンゲで掬って口に運ぶ僕。


「あつぅっ…。」


たった今出来たばかりだったのか、思ったより熱かった…。


「…何してやがる。宿主…貸せ。」


今度はレンゲを奪い取ってバクラが掬う。それからふーふーと息を吹き掛けて…。


「ほらよ。」


僕の口の前に。

…お前、そんなキャラだっけ?

こっちが恥ずかしいじゃないか…。


「……早く食え。」


…仕方無い…。食べよう…。


「…あーん。」


むぐむぐ。


「…美味しい…。」


意外だった。

バクラの作るご飯がこんなに美味しいなんて…。

僕が飲み込むのを見計らって次々と冷ましたおじやを食べさせるバクラ。

時折、コップにスポーツ飲料を注いで飲ませてくれる。


「…ありがとう…。」


気がついたら口が勝手に動いていた。

それを聞いたバクラは少し目を見開いて、笑っていたんだ。

いつもの皮肉気なものじゃなく、微笑むように…。


「薬飲んで、早く元気になれよ。」


そう言い残して食べ終わった土鍋を持ち、キッチンに向かって行った。

…そういえば、薬もスポーツ飲料も、無かった筈なのに…。

わざわざ買ってきてくれたのかな。

そう思うと、自然と顔が綻んだ。







〜あとがき〜
少しは…少しはらぶらぶになりましたでしょうかねっ?
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