短編2

□幼き思い出
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幼き思い出 幼少海馬


「にいサマっ!おたんじょーび、おめでとうっ!」


「ありがとう!モクバ!」


「おれね、今日、にいサマのためにりょーりするんだぜぃっ!」


キラキラと瞳を輝かせる愛弟に幼き兄は顔を綻ばせた。


「楽しみにしてるよ!」


「うん!」


自室で二人が微笑み合う。

いつも守っている弟が、誕生日に慣れもしない料理をしてくれると言うのだ。

幼き心に、弟の優しさが染み渡った。


「瀬人様。」


大人の低い声が聞こえ、控えめにドアがノックされた。


「磯野か。どうした。」


その声に答える幼き兄の言葉は、弟に向けるものとは違い、威厳を意識したものであった。


「剛三郎様がお呼びです。」


「分かった。すぐに行くと伝えてくれ。」


「分かりました。」


ドア越しの会話。

交わされる言葉は淡々としていて、海馬家の厳しさが窺えた。


「にいサマ…。」


きゅ、と兄の手を握り、モクバが不安そうに彼を見上げる。


「モクバ…。」


弟は知っている。

あまりにも厳しい次期社長としての育成。

ろくに睡眠すら取れぬ兄。

それらをどうにも出来ぬ、己自身。


「おれ、がんばる…。にいサマが、おいしく食べてくれる料理、つくる、から…。」


だが、弟は強かった。

その小さな身体ではどうしようもない事でも、常に兄を補佐する事を考え続けていた。

何度無力感に打ちひしがれようと、涙を流さぬようにと堪え続けていたのだ。


「モクバ…。ありがとう。」


「にいサマ、がんばって…!」


「ああ…!」


兄は弟に見送られて部屋を後にした。

今日も来る、あまりにも厳しい時間と向かい合うために。







「違う!もっと頭の回転を速くするのだ!」


「ッ…はいっ…!」


「弱い顔を見せるな!」


「はいっ!」


理不尽とも取れる程、義父は厳しい。
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