BOOK
□novel
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幸せ祈ってT〜firstkiss
願ってはいけないと解っているのに、求めてしまうのはただ人間としての欲という感情。
感情は持ってはいけない
近付く事もしてはいけない
それ程の罪を犯した自分だからこそ貴方を愛するなんて以ての外だろう。
只ひたすら
自分を殺していくだけだ
**
ジェイド国でカイル先生の家にお世話になる事になったその夜はとても冷え込んでいて、窓から見える粉雪が街灯を浴びて宝石の用に輝いていた。
思えば自分がいたあの国でもいつだって雪が降っていた。あの孤独な世界もアシュラ王が迎えに来るまでは、視界に入るのはただ雪と絶望だけだったから。
その瞬間を思い出すと今も強い恐怖が襲ってきて肩が震える。ギュッと肩を抱きしめて落ち着かせ息をゆっくり吐く。そして必死で自分を戒める。
願った結果がこの結末だ
もう誰も何も求めてはいけない
ふと肩に置いた手に自分の熱とは別の熱が重なるのを感じて、ピクリと反応した。
「…何やってんだ」
「黒ぷいか〜びっくりしたぁ」
突然の来訪者に驚いたものの、なるべくその動揺を見せないように振る舞う。まさか悩みの大元である彼が突然部屋を訪れるなんて思いもしなかった。
しかも、気配も無く−。
自分が如何に考え事に没頭していたのかが解る。
それが彼に伝わってはなるまいと、また大袈裟にふざけて誤魔化す自分がいて。
「…震えてんのか」
「うん、寒くてさあ…
薄着じゃ駄目だねえ」
震える理由を寒さに押し付け、いつもの笑顔を作って彼に向けた。一瞬彼の眉間がピクリとして気付かれたのではないかと、慌てて言葉をつくる。
「もお、どうしたのー?
珍しいねぇ、君からこうやって訪れるって」
「…別に。ちょっとな」
「えー、用事とかじゃないなら…もしかして夜這い?」
そう言うと彼は突っ込むも何もせず、予想に反して黙ってしまった。いつにもなく真面目な彼が少し怖くも思えて、どうしたものかと彼の顔を覗きこんだ。
「くろさまー…?」
視線が合うとその紅に捕らえられた。
「ー!!」
気付くと、自分の身体がベットに埋もれていて、先程まで視線の先にいたはずの黒鋼が、上に重なるようにして自分を押し倒していた。腕の自由を奪われていて、視線が彷徨う。
「黒様…本当にどうしたの?」
顔が直ぐ目の前で、高鳴る鼓動が耳を支配していた。彼に聞こえていない事を願うばかりで。
「お前が、わからない」
「え…」
「何がしたい、本当は。
何がお前の望みなんだ…。どこか距離を置くくせに、近付いてくる…その理由はなんなんだ」
突然確信を突くような質問に、何も言えなくなってしまう。何かうまい事を言って誤魔化そうと思うけれど、目の前の紅がそれを許してはくれない。
近付く事、君を求める事も許されない。これ以上願って誰かを傷付ける事はしたくなかった。曖昧なまま接っして、内に想いを隠しておこうと。
「オレは、べつに何も…
望んじゃいないよ」
「…そうか、わかった」
そう言うと、キツく封じられた手が解放されて上体を起こした黒鋼が背を向けてドアに手を掛けた。
これでいい
本気で求める前に、自分から突き放すのが一番良い
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