BOOK
□novel
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ドアに触れられた手が回されようとした時。自分の気持ちに反して、その動かされた手を押さえつけてしまった。
自分でも何をしているか解らなくて、その場に立ち尽くしてしまう。
「…何も望まないんじゃなかったのか」
「嫌、…い、かな…いで」
何を言っているのだろう、自分の脳が誰かの声を聞いているかのような錯覚。それでも自分の口は動いて、この目は彼を強く見つめ、押さえつけた手は震えてる。
「…黒、いかないで」
もうどうしようもないほど、声が震えているだろう。
彼の沈黙がとても怖くて、自分の過去の全てを見透かされているような気持ちにさせられる。
それでも無意識に動いた自分の身体はただ純粋にこの人と離れたくないという想い。それは自分が気付かない、彼に対する愛情というべきなのだろうか。
泣きそうなほど胸が焦がれ、彼の瞳が見つめられなくて俯く。するとドアに掛けられていた彼の手が離れて、自分をドアに押し付ける形にされた。意味も解らず顔を上げた時には彼の顔が先程のベットの上よりも更に近い場所にあった。というよりは見開いた視線の先には彼の黒い髪が揺れている。
眩暈がするほど
突然の出来事だった
彼の唇が自分と重なったのだ
状況を把握しようと試みるものの、頭が正常に働いてくれない。気付いた時には触れたものはもう無く、紅い眼が再び自分の前にあって。実感が湧くとその柔らかい感触がとても恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
「あ、…くろ…」
おずおず見上げると彼も同じように顔を赤く染めていて眉間にはいつもより皺が寄っていた。
「…俺は、お前がいいんだ。
お前が嫌っつっても離れる気なんて更々ねえ」
その告白が夢か現か解らなくて呆然とする。
ただ感じるのは自分の熱と唇に残った熱。
「受け止めて、くれるの…?オレを、全て」
その答えは彼の口から発されなかったけれど、その代わりに強く抱き締められ愛の言葉が返ってきた。
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その朝、案の定雪は積もりに積もっていた。
それでも寒さは感じないのは、隣に眠る彼がいたからだろうか。
あれからただ手を握っていてくれて、そのまま眠りに付いた。まだ隣で眠る彼の手は朝になった今でも自分の手を強く握っている。
自分の過去を知ったら、彼はどんな顔をするだろう。
それでも全て受け止めてくれるのだろうか。
そんな不安も、彼の手の温もりが今この刹那は忘れさせてくれるのだから。
「ありがとう」
そう言って額に唇を落とした
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