BOOK
□novel
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泣かずの旅人
song by より子
Title『vant』
words&music by より子
all vocals by より子
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思い出すように
彼は語る事を始めた。
先程まで視線は
宙に浮いていたというのにも係らず、ぱっと思い出すように。
「オレの国に伝わる
童話なんだけどねー」
どのような経緯で
その話に至ったのかは
記憶に曖昧だった黒鋼
何故なら、先程まで深い情事を交わしていたものだから尚更。交わった後に残る気だるさと、隣に横たわる恋人に対する愛しさに浸っていた時。突然その恋人の口から語り始められた。
俺の同意さえ無いまま
魔術師はその物語を
淡々と語るのだ。
あるところに
生まれて一度も涙を
流したことのない
旅人がいました。
親が死んだその時すら
旅人は平然と
祈りを捧げるだけで。
その様子に誰もが
ヒトの子である事すら
疑っていました。
彼は旅に出る事にしました
亡き母が残した美しい顔を
塗りつぶして
一粒の涙を描きました。
自分の本当の涙でしか
洗い流せないようにと―…
その仮面に呪いを
かけました。
そこで一息置いたファイが情事後の重たい身体を動かして、スッポリと黒鋼の腕の中に納まった。黙って聞いていた黒鋼は、恋人の不思議な行動に驚きもせず、胸に顔を埋めたファイの肩を抱いてやる。
「続き、聞く?」
「聞いてやるよ…
仕方ねぇから」
そう言うと腕の中でクスクスと笑う音が聞こえて、それが胸に伝わってくるのが解った。
「非道いなぁ…黒様。
でも、どうしても話したいから聞いてね」
そうしてまたその唇から
物語が語られる。
まるで俺をあやすように語られるその口調に少しくすぐったさをを感じながら。
旅の途中にある街で
知恵を持つ男と
力のある男と
幼い少女
そんな三人に出逢う
運命に導かれるように
四人の旅が始まりました。
旅人は、初めて
本当の仲間を
見つけました。
『もう淋しくなんか無い
孤独なんかじゃ無い
本当の孤独があるなら
それはきっと 』
「それは、きっと―…」
そこで語る口が閉ざされた。その様子に黒鋼は違和感を感じてファイの顔を覗き込んだ。
俯いて言葉を探す、けれどその先の物語が喉で突っ掛かるように出て来ないといった状態で。
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