捧げ物

□何れ菖蒲か杜若
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それは焦がれていた極上の甘い蜜


「迎えに来ましたよ、綱吉くん」


きっと、この手をとってしまったら俺はもう二度とここへは戻れない

それでもこの手に、この人とともに…


「あぁ…ダメですね、今日はもう…」


なんでそんなこというんだよ

なんで、お前はここにいないんだよ…

そんなの…


「ではまた―――」


悲しいじゃないか


「何れ」


待てよ、まだいいだろ…

好きなんだよ……お前のことが…


「――Arrivederci」


もう逢えないかも知れない

それを思うと離れるのは惜しいのですが、今日はもう時間切れです


そういい残して消えたその残像をただただみつめるしかできない自分がもどかしかった





=== 何れ菖蒲か杜若 ===





目覚ましの音が鳴り響く

それでもまだ眠っていたいと思うのは人間の本能とも言うべきものだろう

無意識のうちに目覚まし時計をとめて再び布団に包まる

しかし、それはやはり許されない


「いつまで寝てんだ、起きろ」

「いってぇーーーっ!!」


文字通り、叩き起こされたのはこの部屋の主の沢田綱吉

彼は世界最大とも言うべきマフィア・ボングレファミリー10代目候補である

起こしたのはその家庭教師でありヒットマンでもある最強の赤ん坊アルコバレーノの一人リボーン

綱吉は先日ボンゴレ9代目からの初の指令で並盛中に起こっていた襲撃事件を片付けた

あれから2週間が過ぎて全身筋肉痛だった綱吉はやっと起き上がれるようになっていた


「お前そろそろ学校行け、宿題溜まってるぞ」

「うわぁー!今更そんなこと!!」


机の上にはプリントの山ができていた

この2週間ろくに動けずに居たので入院扱いになっているのだ

事実、始めは入院していたのだが


「そ、そーいえば、獄寺くんとかヒバリさんは…?」

「まだ安静が必要だからな、入院してるぞ」

「マジー?!山本はもう学校いったって聞いてたけどやっぱり二人重症なんだ…」

「それだけじゃねぇぞ」

「え…?」


まだ何かあったのかと綱吉は一瞬表情を青くした

しかし


「獄寺の奴ビアンキと同じ病室で、治るもんも治らねぇそーだぞ」

「それって病状悪化させてるだけじゃん!!!!!」

「そーともいうな」

「そーとしかいわない!!」


朝から元気な二人

これが日常

これからもそうだと思う

しかし、それから逃げ出すすべを自分は知ってる

だが…この生活もなじんでしまうと悪くはない

この状態が一番いいのだと、自分に言い聞かせる


「そーいやお前どんな夢見てたんだ?」

「え…」

「泣きながら寝てたぞ、今更怖い夢とか見てお寝しょすんなよ」

「…しないよ、そんなの」

「……」


―――あれはただの夢だ…


いつもなら大声で否定するはずの綱吉が、大人しい

その理由を知ってか知らずか、リボーンは帽子のつばをくいっと下に向けた


「ツッくーん?起きたなら朝ごはん食べちゃいなさーい」

「はーい…」


でも、夢の中なら逢える

今ここに居ないけれど、逢えるんだ

だったらいっそのこと目覚めないほうが言いとすら思えるほどに


「って、何考えてんだよ…俺」


逢いたいって思ってしまう

逢って、抱きしめて欲しいと思う

それが例え、現実でないにしろ逢いたくて逢いたくて仕方がない


「―――はは、女々しいな」


制服に着替えて、階段を下る

うろちょろとランボやイーピンが走り回ってる

ビアンキはまだ入院中だから居ないけど…さきに退院したフゥ太が楽しそうにそれを観ている

これが日常

殺伐とした戦いから戻ってきた自分の日常

でも、ここから逃げだしてあいつと一緒に…


「つーくん、早く食べないと遅刻するわよぉ」

「解ってるよ」


心ここにあらず

そんな感じでまた一日を過ごしていく
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