ヒバツナ短編2

□草壁の夏休み
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青く澄み渡る大空

そこへ漂う白い雲

今日も平和だ




=== 草壁の夏休み ===




「……はぁ」

「どうかなさいましたか、委員長」

「…最近、綱吉に逢ってない」


夏休み

冷房の効いた応接室で風紀副委員長、草壁哲也は仕事に励んでいた

風紀委員長である雲雀恭弥の元、忙しくも充実した日々を送っている草壁は時々こうした愚痴を聞く

この愚痴は自分にのみ聞かされることであることを知っているため悪い気はしないのだが、たまに胃が痛い思いをすることもある

大抵が惚気話であることは百も承知


「沢田ですか…?」

「うん、最後に逢ったの…3日前…」


夏バテの所為で気だるげなのかと思っていたがそうではなかったらしい

沢田綱吉は恭弥の恋人だ

このことを知っているのは極小数だが、多分勘付いているものは多いだろう

確か彼は今、家族で旅行に行っていると聞いた

出かけに恭弥を頼むとの連絡が来たのだ

本当にいつもいつも感心してしまうほど気配りの多い方だと思う

さすがは恭弥の認めた方だ


「毎日、メールとか電話は来るんだけど…物足りない」

「委員長もご一緒されれば宜しかったのでは…?」

「僕はあの駄犬や野球部員や種馬とは違って家族水入らずを邪魔する気はないよ」


駄犬や野球部員や種馬

それはいつも綱吉を取り巻いている友人たちのことだろう

獄寺隼人、山本武、“跳ね馬”ディーノ

なるほど、恭弥は綱吉以外と群れるのが嫌なのだろう


「……いつ並盛に?」

「明日」


逢いに行こうと思えば、恭弥ならバイクでいける距離だろうに…

どうやら群れるのが嫌、という理由だけではないようだ

おそらくは…


「委員長、仕事のことなら自分がやっておきますが…」

「……なに、行って来いって?」

「夏休みも毎日のように仕事をこなしていらして、休息していないのでは?」

「…僕がいないといつ変な輩が現れるか知れないからね」

「一日くらいなら自分や他の委員たちでなんとかできます」

「…………」


考えるような素振りを見せる恭弥

あと一押しか


「沢田も、委員長に逢いたいと思いますよ」


刹那、恭弥の纏う空気が変わる

少し調子に乗りすぎたかと目を閉じて次にくるであろう衝撃に備える

しかし思っていた衝撃はなく、代わりに肩に何かがおろされる

目を開けば自分よりも少し低い位置にある、恭弥の頭


「じゃぁこれ、頼まれてくれるかな」

「―――押忍…っ」


差し出されたのは明日中に提出のファイル

恭弥は手早く身支度を整えてファイルをいくつか持った

おそらく家で処理するつもりなのだろう

草壁は受け取ったファイルを開く

この量ならば自分でも明日中に終わらせることができるだろう

いつもいつもこの大量の資料整理をひとりで請け負っている恭弥にくらべたら微々たる物だ

少しでも役に立ちたいと思う


「じゃぁ、悪いね…明後日にはちゃんと…」

「こちらのことは気にせずゆっくり羽を伸ばしてきてください、委員長」

「…ありがと、いってくる」

「―――押忍、お気をつけて」


深々とお辞儀をして恭弥を見送る

いつもいつも並盛のために勤めている恭弥に少しでも楽をしてほしいと思う

これは風紀委員一同みな思っていることだ

夏休みくらい、楽しい思い出を残してほしい

草壁もきちんと夏休みの間、休みをもらっていた

だからこれはせめてもの…





  
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