少年陰陽師

□ある日の出来事
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先程から、ある物をあちこち探しているのにも関わらず見付からない。
突然、がらっと自室の妻戸が開く。

「昌浩…どうかしたのか?」

顔を上げると、物の怪が唖然(あぜん)と此方(こちら)を見ていた。
それもその筈(はず)だろう。
足場の踏み場もないぐらいに周りには本やら何やらで、殺伐としている。

「うん、そうなんだよね」

ふぅと昌浩は嘆息し、物の怪の肩を両手でがしっと掴み、持ち上げる。
そして、力任せに振る。

「見つかんないよ、どうしよおぉぉ」
「うぉっ、や、止めろおぉぉ」
「…!あっごめん」

我に返った昌浩は、パッと手を離す。
が、物の怪は勢いあまり、部屋の壁に頭から激突。ごんっという、鈍い音がした。

「うっわぁ、痛そう……」
「自分で投げといて痛そうはねぇだろ…」
「あーごめん、ごめん、つい」
「ついって…なぁ」

強か打った頭を抱え、戻ってくると昌浩を軽く睨む。
昌浩は苦笑いを浮かべ、ばつが悪そうに頬を片手で掻いた。

「んで昌浩や、何を探してたんだ?」
「…彰子に貰った匂い袋」

言いずらそうに言うと、ふいっと顔を背ける。
暫く妙な沈黙が続く。
それを破ったのは物の怪の溜め息。

「あ〜あ、彰子怒るわなぁ。一生口訊いてもらえないかもなぁ」

器用に腕を組んでちらちらと昌浩を眺めやる。
昌浩にとっては、何とも居心地が悪い。

「どうしよ、もっくん」
「知るか!」
「もっくん、もっくん、もっくん、もっくん、もっくん、もっくん」
「煩(うるさ)い!」

一喝し、ふと真面目な顔になる。

「正直に言うしかねぇな」












___

自室を出た昌浩は、彰子の部屋へ向かう。

「正直言うしかない、かぁ…」

先ほど、物の怪に言われた言葉を反復する。
分かっているのだが、いざとなると心がひいてしまう。
嫌われるのでは無いか、と物の怪の言った通りに一生口訊いてくれないのでは無いか、と。

「きゃあ」
「!」

考え事で前方に気が向いてなかった。
昌浩は目を見開く。前方にいたのは、なんと彰子だった。

「ごめん大丈夫?」
「うん大丈夫よ」
「彰子あのさ…」

彰子は小首を傾げ困惑した表情を浮かべた。
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