少年陰陽師

□最悪な日
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蒸し暑さに目が覚める。
横を見ると隣に寝ているはずの物の怪の姿がない。
不安になるが、散歩だろう。そう自分を落ち着かせ、昌浩は茵(しとね)から起きあがる。
出仕用の直衣に着替え、髷(まげ)を作り、烏帽子(えぼし)をかぶる。
自室の妻戸を開け眺めた。空は雲一つなく、快晴だ。
廊下を歩いていると此方(こちら)に向かう彰子と会う。

「おはよう、今起こしに行こうとしてたのよ」

おはよう、と昌浩も返し悪いことしたかなと頬(ほお)を掻(か)く。

「…なぁ彰子、もっくん知らない?」

もしかしたら、物の怪の居場所を知っているかと淡い期待をする。
だが、打ち砕かれた。その証拠に彰子は驚いた表情をしている。

「ごめんね、分からないわ。それと朝餉(あさげ)の準備したから」

有難う、昌浩はお礼を言い二人は別々の方向へ歩みを進めた。
食卓へ行く前に家中を探したが、物の怪を見付ける事は出来なかった。
現在、朝餉を食べ終えたが、結果は同じだった。

「ったく何処行ったんだよ」

無意識に言葉が漏れた。
突如、白い何かが目を掠(かす)める。

「昌浩?何だその間抜けな顔は」

白い何か、それは探しても見つけることが出来なかった物の怪。
物の怪は首を傾げ、昌浩を凝視している。
昌浩は目を擦(こす)り細めが、見間違いでは無かった。
見つけられた事によりほっ、と胸をなで下ろす。
だが、喜びよりも先に怒りが現れる。

「もっくん何処行ってたんだよ!」

物の怪はすまん、と一言謝る。が、昌浩の気が収まらない。

「心配したんだからな、行くなら言ってから行けよな!」

細く、白い体躯を昌浩は持ち上げ、自分の目と同じ高さにした。
物の怪は気まずそうに、視線を泳がせる。

「…またいなくなっちゃいそうで、怖かったんだか…ら……な……」

先程と打って変わり、昌浩の声音は弱々しい。
どうしたのかと目線を逸らしていた物の怪は昌浩を見た。
俯いていた。わずかに手も震えている。
その事に気づき、物の怪はどう声をかけていいのか言葉に詰まった。

「……すまん」

ようやく経って、出てきたのは先程と変わらず、すまんの一言。

「今度は気をつける」
「分かった」

物の怪にこくり、昌浩は小さく頷いた。

「…昌浩」

勾陣の声が聞こえ、なにかと問う。
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