少年陰陽師

□夜明け
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ふ、と目が覚めた。
まだ辺りは暗く、朝が来ていないことが分かる。
十二神将であるためか、人であらざるもののためか、夜でも見通す目を持っている。
そのため、横を見やればすぅすぅ、と規則正しい寝息をたてている昌浩がいるのを確認できる。
起こさないように起き上がり、前に進もうと一歩足を踏み出す。が、前に進まず首を傾げる。
後ろを振り向き、原因が知れた。
昌浩が物の怪の尻尾を掴んでいたのだ。
物の怪は小さく苦笑する。
昌浩の手を取り、一本ずつ離していこうとしたが強く握っているため無理だ。
どうしようかと頭を巡らせる。

「ぅう…ん……」

寝返りをし、昌浩は物の怪のいる方と違う方向を向く。
そのせいで、あれほど強く握り締めていた尻尾を離した。
好機と判断し、からり、妻戸(つまど)を器用に開けた。
風が自分の毛並を揺らす。これは妖怪の類のものではない。自然に吹く風。
妻戸を閉めた直後、空を仰ぐ。
綺麗な月が出ていた。淡い光が射し込み、物の怪に陰を作る。
今日は久し振りのいい天気になりそうだ。
心中で思い、庭に出て築地壁に登り、ひょいと屋根に上がる。
屋根に上ると、物の怪はいつもの特等席に腰を落ち着かせた。
もうあの日から数ヶ月経ち、すべては終わった。そう、終わったのだ。
今は道反から貰った玉が昌浩の目となっている。
だが、自分が乗っ取られなければ、昌浩が見鬼の才を無くす事等なかった。
それを考えると、心苦しくなった。

『もっくん』

昌浩の笑った声が聞こえた気がした。
いつもその声にどの位救われただろうか。両手では足りぬほどだ。
弱々しく物の怪はふっ、と笑い空を仰ぐ。
そうしないと、熱くこみ上げてくるものがこぼれ落ちそうだったから。
空はいつの間にか太陽が登っていた。
闇から一筋の光が差した、昔の自分のような光景。明るい、眩しい光。
有難う、物の怪は呟いた。

廊下の縁側に佇む影があった。勾陳だ。
昌浩が物の怪を探している事を伝えようとしたが、憚られて勾陳はそこに足を組み座った。



fin.
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