少年陰陽師

□最悪な日
2ページ/7ページ

「勾陳、どうした?」
「出仕しなくていいのかと思ってな」

昌浩は勾陳の言葉に固まった。
物の怪探しですっかり忘れていた。

「有難うっ!」

早口に礼を言い、物の怪を肩に乗せ、ばたばたと玄関へと向かう。
勾陳は小さく苦笑し、昌浩の後ろ姿を見送った。
玄関に着き、沓(くつ)を履き終え昌浩は行ってきますと開き扉を開ける。

「昌浩、もっくん、行ってらっしゃい」

後ろを振り向くと彰子が片手を振っている。

「うん」

返事をして開き扉を閉めた。

「どうしよ遅刻になんなきゃいいんだけど」

玄関を出て、すぐさま走りながら昌浩は呟く。
だな、と物の怪は短く返した。

「お〜い、孫〜」

脳天きな声が聞こえたが無視し、昌浩は走り続ける。

「孫ったら孫〜」
「無視すんな〜」

たたたた、と小さな足音が聞こえる。
横目でちらり、と視る。
雑鬼三匹が塀に登り、併走しているのが視えた。

「何の用?こっちは急いでるんだけど」

昌浩は仕方なく立ち止まる。
三匹の雑鬼達は塀の上からぴょこんと降り、一言。

「何もない」
「…!っ。じゃあ呼ぶなよな」

吐き捨てて踵(きびす)を返す。

「用ってほどじゃないけど、この頃お前見掛けねぇなって思ってさ」
「そうそう」
「だからこっちからわざわざ朝に来てたやったんだぞ」

口々にいい募る猿鬼、一つ鬼、竜鬼の雑鬼三匹を昌浩は顧(かえり)みた。
そういえば、この頃何事も無かったので夜中外に出歩く事はしていなかった。なので雑鬼達と会ったのは久しぶりだ。
だからといって、今かなり急いでいる時に呼び掛けなくともいいではないか。

「ねぇ分かってる?俺さ急いでるんだけど」
「あっそうなのか?」
「さっきから言ってるんですけど…」
「じゃあ早く行け」
「……」

呆れてものが言えなかった昌浩。

「遅刻すんなよ〜」

後ろから声が聞こえる。昌浩は後ろ手に手を振りながら走った。
大内裏(だいだいり)に着いた頃には、汗だくだった。
昌浩は額に浮いた汗を手の甲で拭(ぬぐ)う。

「昌浩殿!」

敏次の声がし、ついで足音が聞こえた。

「はい!なんですか敏次殿?」
「何をしている?もう出仕の時刻は過ぎとるぞ」
「すみません」

やはり遅刻した。うなだれる昌浩を横に物の怪は憤慨している。

「くわぁ…!なぁにが何をしているだぁぁぁあ!?人のこと言えねぇだろ。自分はこんなとこで何やってんだ。そう思わんか昌浩?……奴の背に俺様の華麗なる足げりを…」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ