偲遊記
□第四ノ刻 忍び寄る影 (前編)
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「さてっと・・・悟浄。
すみませんがレストランの予約お願いしてもいいですか?」
ふぅ。とため息を吐きつつ、
八戒が問うと、悟浄は小首をかしげる。
「いいけど・・・。 八戒は?」
訊ねれば、八戒は苦笑しつつ、
「ちょっと気になることがあるんで調べてきます。」
と、答え、付け加えのように、
“悟空たちにはまるで内緒ですよ。”
と言うかのように、
己の唇に“しぃ―っ。”と声を漏らしながら、
人差し指を当てた。
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「5人で。
シングルは必ず1つ付けてください。
あとはどーでもいいんで。」
宿屋の娘の営業スマイルも美形の悟空の前ではなんのその。
それどころか娘はほんのり頬を紅く染めている。
もちろん悟空はそんな事には一切気づいていないし、
いつものやる気のなさそうな瞳で、
淡々とチェックインを済ませようと、
手続きを行う。
「ちょっと・・・聞いてる?」
プリントに必要事項を書き込んでいた悟空だが、
娘の反応がないことに、不意に顔を上げた。
「は、はい。た、只今!!」
娘は弾かれた様に我に返ると宿の空き部屋帳をとりだし、
シングルの部屋を探し始める。
「三蔵。もうちょっとだから。
トリ。悪いけど八戒たち探してきて。
宿取れたら行くから。」
悟空は三蔵とトリにそう告げながら、
背負う三蔵を負ぶいなおした。
「・・・。」
トリは頷き、
静かにその場を後にした。
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