今、ここにいるから
□Scene.3
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「ここは…?」
「あんたが生まれた病院。ほら、早く行くよ。」
天使様に必死についていって、着いたところは「雨苗深雪」と書かたプレートの掛かった病室。
「お母さんの名前だ…」
何も言わずに扉を通り抜けて行く天使様に気づいて、慌てて私も中に入った。
「あんたが生まれてすぐ後の頃だよ。」
そこには、紛れも無く、私のお父さん、お母さんがいた。
『深雪、よく頑張ったなぁ。』
お父さんが横になっているお母さんの頭を撫でている。
『赤ちゃんもでしょ。元気に生まれて来てくれてよかった。』
『そうだな…。名前、何にしようか。』
『もう決めるの?(笑)』
お母さんがクスクス笑ってる。
『だって名無しは可哀相だろ?
出来るだけ名無しなのは短い間のほうがいいじゃん。』
『それもそうだね。
…じゃあ、“沙雪”は?お父さんの沙に、私の雪。きっと、凪沙に似て、きめ細やかな優しい女の子になってくれるよ。』
『…ネーミングセンスいいなぁ!
じゃ、今から君は沙雪だよ。これから仲良く暮らそうな。』
そう言ってお父さんは私を抱っこした。
『あ、笑ってる』
『きっと“お父さんよろしくね”って言ってるんだよ。』
『かわいい。』
『そりゃ、学生時代モッテモッテだった凪沙さんの子ですから(笑)
あーあ。きっとこの子お父さん似だよ。ほら、目元そっくり。』
『何、深雪拗ねてんの?(笑)』
『だって…』
『はいはい。
ったくお母さんになっても変わんねーな。これで機嫌直せよ。』
そう言ってお父さんはお母さんのおでこにキスを落とした。
甘っ
でも…
「私の名前、そういうことだったんだ…」
「歓迎されない赤ん坊なんかいないよ。みんな、両親に望まれて生まれて来るんだよ。それにしても、愛されてんな〜。」
天使様が微笑んで見ている。
「ねぇ、天使様。何で、生まれてきたのが私だったのかな。私じゃなくっても良かったんじゃない?」
「さあね。あんたの命が生まれようと頑張ったんじゃない?
あと、“天使様”ってのやめてくれ。恥ずかしい。」
「じゃあなんて呼べばいいの?」
「……シヨ。あたしの名前だ。じゃ、次行くよ。」
そう言って、天使様…じゃなくってシヨはパチンと指を鳴らした。