3周年企画

□筑波嶺の峰より落つるみなの川
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あ、またいる。

なんとか晴れて進級でき、学校が始まった。

遅刻すれすれの電車を待っていると、いつも見かける女の子がいる。

新品のカバン、制服、ローファー。

一目見て、同じ学校の新入生だとわかる。
珍しい奴だ。

そして、どこにでもいるような、至って普通の女の子だ。

一眼レフを首から下げているところ以外は。

女子になんてあまり興味がなかったのに、いつの間にか駅で彼女を探すようになった。


「あの子は一体誰なんだろう…」

昼間、無意識にそんな言葉が出る。

「おっ、なになに?恋愛興味なしのお前がついに、好きなやつ出来たか??」

しまった。今はまだ一人じゃなかった…

「ねー、だれだれ?」

…しかも恋愛話に五月蝿いやつときた。

「何でもねーよ。
担任に呼ばれてるから、じゃあな。」

あ、逃げた!
と、でかい声を出すあいつを無視し、屋上に行った。

担任に呼ばれたなんて嘘だ。


いつもの場所に行くと、たんぽぽが咲いていた。

「こんなコンクリの所に、よくお前は咲いたなぁ…」

しゃがみこんで少し人差し指で花をなぞった。

カシャッ

不意に微かだがそんな音がした。

そちらの方を見てみると、あの女の子がいた。

目に浮かぶのは恐怖の色。

ま、しょうがない。つり目だし、男だし。

「すっすいません。撮るつもりじゃなかったんですけど、雰囲気が優しくて、
どうしても残したくて、つい…癖で。」

「別に。ただ驚いただけだから。」

「あの!
さっき撮ったやつ、展覧会に出して良いですか?
勿論顔のところはカットするので!
ダメ、だったら良いんですけど…」

「好きにして良い。
展覧会に行かせてくれるなら、顔有りでも。」

彼女は目を見開き、少し赤くなった。

「…さっきと同じ顔です。優しい顔。
あ、これ展覧会のビラです。
じゃ、私はこれで!

彼女は走ってここを出ていった。


展覧会に行くと、彼女の写真と思われるものがあった。

タイトルを見て、驚いた。

『知って。でも知らないで。』



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