都立九重高校ライフ

□第二章 文化祭
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昼休み
悠は廊下を走っていた
担任の雑用を押し付けられたのだ
沢山の荷物を抱え走っていると荷物にばかり神経がいき当然のように悠はバランスを崩した

「きゃっ!!!!」

なんともかわいらしい声をあげて悠は荷物もろともこけたのだった

「あーもう!!
八十川がいけないのよ」

こけたこと、雑用をやらされていること、担任への不満
その全てに腹がたった

「だいじょうぶ?」

「ありがと、平気だから」

こけた所を見られたと思ったのか悠は声をかけてきた人物を見る事なくそっけない返事をする

「手伝ってあげようと思ったんだけど、、、」

「ご心配なく、このくらい…」

そこで初めて声をかけてきた人物の顔を見た
驚きで言葉がつまる

「愛季…」

「もつよ」

悠が持っていた大量のファイルやプリントを愛季はひょいっと持ち上げる

「ありがと」

「どういたしまして」

悠は愛季に顔を向けようとしなかった
こけた所を見られたかもしれない羞恥と愛季にとってしまったそっけない態度が悠に顔を向けさせる事を許さなかったのだ

「豪快にこけてたね」

廊下を歩いている愛季は思い出したようにくすくすと笑いながら言った
悠にとってそれはなんとも恥ずかしい言葉だった

「うるさいな!」

どうしてもつんけんした態度をとってしまう
愛季は悠に優しく言った

「笑ったのは謝るよ
でもいつも気張ってる小川が豪快にこけたのはいつもと違ってかわいかった」

「…黙って歩けないの?」

赤くなりかけた頬をごまかすように悠は鋭い一言を投げかける
愛季は少し驚いたような顔をしたがその言葉を聞くとニヤリと笑った

「そういうこと言うと持ってあげないよ?」

「誰が持って欲しいって言ったのよ」

愛季の言葉に即座に返す悠
その態度があまりに面白くて愛季は悠をからかってみたくなった

「あっそ
じゃあ持ってあげない」

そういうと愛季は悠の持っていたものの上に自分が持っていたものを乗せる
いきなりの事に悠は微かにバランスを崩した

「いきなり何すんのよ!!」

「小川がいけない
持ってほしかったら素直になりましょう」

「……」

わずかに口を開くが悠は何も言わずスタスタと歩いていってしまう

が、やはり危うい
何度もバランスを崩しかけ最後には持っていたものを落としてしまった

「だから言ったのに、、、」

愛季は慌てて駆け寄ると悠が落とした物を拾いはじめる
少しやりすぎたかなと反省し謝ろうと心に決めた愛季が言葉を発する前に悠が口を開いた

「…もってください
おねがいします」

目にうっすらと涙をたずさえ悠は言った
愛季はその言葉に慌てて応じる

「ごめん小川
泣かすつもりはなかったんだけど…
ほんとごめん」

フルフルと悠は首を横に振った
愛季は落ちたファイルを持ち上げると悠を立たせそのまま職員室に歩いていく

「これなんのファイルなの?」

「わかんない
持って来いって言われた」

悠の答えに愛季は首を傾げる
あの担任はいつもそうだ
生徒になんでもかんでも押し付ける

「失礼します」

職員室にファイルを持って入っていく
担任である八十川は微笑みながら手招きした

「ありがとう小川さん
一鷹さんにも迷惑かけたわね」

八十川はお礼を口にしながらも愛季が悠と一緒にいることに驚いているようだった

「えっとね
今日のHRで話し合ってほしい事があるの」

「なんですか」

うんざりした感じで悠は答える
それを見た愛季は悠に軽く耳打ちする

『落ち着けよ』

愛季に耳元で話された悠はビクッと体を震わせた

「もうそろそろ文化祭も近いでしょ?
先に何やるか決めておいたほうがいいんじゃないかしら」

文化祭
その言葉に悠と愛季は頬を上気させた
今年が最後の文化祭となる高2は文化祭が楽しみでしかたなかったのだ

「じゃあ今日のHRで話してみます」

悠の言葉に八十川はにこりと笑った



「ということで、文化祭の出し物について決めたいと思います
…って織史とともゑは?」

「さぼりじゃない?午後の授業もいなかったし」

終礼での連絡が一通り終わった所で悠と愛季は教壇にたった
そこで後ろ二つの席が空いているのを見つけた
悠の問いに純子が答える

「あの二人なんなのよ
では…やりたいものがある人いますか?」

「喫茶店がいい!」

「妹カフェかメイドカフェ」

「スポーツ大会…」

「お化け屋敷とか?」

「出来ればシフト変更しやすいのがいいな
マイハニーと遊びたいから!」

クラス中が好き勝手言う中、悠は聞き漏らす事なく黒板にズラズラと書き出していく
何も注意されないのを良いことにクラス内はどんどん騒がしくなってきていた
あまりの煩さに悠の怒りが限界をこえようとしたとき愛季が静かに言った

「少しうるさいね
静かに出来ない奴の意見は聞かなくていいってことかな?」

にこやかな顔をしながら出しているオーラはブラックそのものだ
クラス内の声が色褪せるように消えていく
そんな愛季には慣れてしまったのか悠は特に気にする事もなく黒板に字を書き上げている
そんな二人の様子にクラス内にいる全員が思った
この二人、キレたら絶対手に負えない

「じゃあ他に意見ありませんか?
意見がある人は挙手してから言ってください」

挙手の一言に力を込めて悠は言った

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