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『寒くなりましたね。』
窓を開ければスッと冷気が入り込み、ふるっと揺れた身体を抱き締めるように八戒は自らの手を回した。
振り返れば、
眉間に皺を寄せ、書類と格闘するかのように俯いてペンを走らせる三蔵のつむじが見える。
『寒い。』
ぽそりと呟かれた言葉に八戒が慌てて窓を閉めた。
常ならば真っ白く籠められた煙草の煙に小言の一言でも言い、意地でも窓を閉めることの無い八戒だが、このところの公務の激しさを物語るような三蔵の険しい顔に何も言え無かった。
『すみません。あ、温かいもの入れますね。』
手伝いに来たといっても、実質内容を把握し必要事項を的確に書き処理していくのは三蔵であって、八戒は直ぐ山となる灰皿を取り替えるなどの雑用しか携わることが出来ない。
一区切りついたのだろう。ふぅと三蔵が息を吐いた。
『こっちへ来い。』
茶葉を手にした八戒はまたそれをテーブルに置き、訝しみながら三蔵の側に立った。
『え?』
思いがけず腕を引かれ、ストンと三蔵の膝の上に腰を下ろした八戒は慌てて彼の首に腕を回した。
『あったけえ…』
骨ばかりで柔らかい肉も纏ってない自分を抱き締め、そう呟く三蔵に苦笑して八戒は唇を頬に押し当て横にずらした。
うっすらと開いた三蔵の口の中にするりと舌を忍び込ませ、あっという間に顔を離した。
『褒美はねえのか?』
『褒美?お仕事のですか?』
『違えよ。お前がそばにいるのに手を出さないでいる褒美だ。』
今まさに手を出しそうな雰囲気なのにと一瞬眉根を寄せた八戒だが、ふと笑みを浮かべ三蔵の薄い唇に指を這わせた。
『そうですね。もう一踏ん張り頑張って頂けたら、僕も頑張ってお相手しますよ。』
久しぶりに会えたのだ。互いの欲も育っている。八戒はねっとりと唇を三蔵にあわせ、わざとリップ音を立てて笑った。
『ですから今は、お茶を入れてきます。』
名残惜しそうな三蔵の腕の中から八戒は立ち上がった。
窓からは先を争うように色を変えた樹々の葉が揺れている。
もうすぐ冬が来る。
そんな、ある日のこと。
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