頂き物小説
□逢い引き(グリ一)
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物言わぬ月だけが、唯一の味方だった。 甘美で耽美な逢瀬を奏でよう。
何処までも続く、無限のメロディーを。
日付が変わるのを確認した後に、一護はそっとベッドを抜け出す。
枕元には、ライオンのぬいぐるみ。
規則正しい寝息を立てる姿に、一護は聖母のような微笑みを浮かべた。
枕の真ん中にコンを寝かせ、一護はそっと布団を掛け直す。
「風邪引くなよコン。俺、ちょっと出掛けて来るな?」
ポンポンと軽くコンのお腹をタッチする様子は、まるで母親のような慈愛に満ちていた。
小さな住人を起こさないように。
一護は掛けてあったコートを羽織り、静かに部屋を後にする。
履き古したスニーカーの踵を踏み、逸る鼓動に逆らわず。
一護は、寝静まった街中へと旅立った。
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春になったことで、肌を刺すような寒さも大分落ち着いたような気がする。
それでも寒いことに変わりはないが。
約束の場所である学校に向かいながら、一護はぼんやりと思った。
しかし考え事を出来たのも、この瞬間だけ。
正門の上に片膝を立てて佇む、白い影を発見する。
「グリムジョー!」
欲しかったオモチャを見つけた子供のように、一護は琥珀の瞳を宝石以上に輝かせた。
街灯やランプよりも、眩しい光。
グリムジョーと呼ばれた男性は、自分に向けられた闇を霞ませる瞳の輝きに、口元を緩やかに上げる。