12/11の日記
08:22
【万感の槍水仙(イキシア)】(倉沢)
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「倉持洋一を俺に下せぇ!!」
花束を持って、泣き腫らした目。
嗚呼、本当いつも何かやらかしてくれる野郎だぜ。
でもまぁ、一方的にしてやられるのは癪に障る。
ヤツの身体を強引に引き寄せて告げた―
秘めた恋だった。
ただひたすら真っ直ぐな男で、苦難にも困難にも立ち向かい、仲間を鼓舞する熱き男。
そのくせ、生意気な面に隠して、悲しさも悔しさも一心に背負い込み、涙を流す脆い男。
そんな男に、過ちなど疑う余地も与えられず、心底惚れるのに時間は掛からなかった。
アイツと2人でパシ‥買い出しを頼まれた時、夜の道で手を繋いだのは俺から。
振り払われず、お互いの熱が手に集まった。
梅雨の時期に、雨も構わずに走り続けて翌日に体調を崩すバカなアイツの看病をした時、
唸りながら眠る面に、早く良くなるよう御呪いのようにこっそりと額へとキスをした。
イップスの時、暗闇から抜け出すために必死に藻掻く姿に、毎晩のように出迎えてアイツの寝息が聴こえるまで見守った。
下手したら一生治らないかもしれなかったイップスを克服した翌日の早朝、俺はちゃんと知っている。
寝ている俺の頬にアイツの唇が触れたのを。
扉が閉まってから、触れた個所を触り、照れ隠しで舌打ちをした。
お互いが互いの気持ちを分かってた。
ただ、口には出さなかった。
関係を形にはしなかった。
何よりもお互いが野球を第一に優先する姿勢を、俺を今でも誇り高く思う。
念願だった甲子園で優勝を決めた日、揉みくちゃになって輪の中で笑い合った。
このチームで、エース番号を背負ったアイツが居る中で、成し遂げられたことに、俺達の想いが報われた気がした。
部活を引退した日、不っ細工な面で泣いて見送られた。
アイツの後ろを守るのは案外楽しかったぜ。
約1年半共に過ごしてきた5号室から新しい部屋へ移った日、お互いに大事な言葉を飲み込んだのに、
去ろうとする俺の背中に抱き着いてきた。
此処には2人での想い出溢れ返っている。
折角、カッコ良く立ち去ろうとしたのに、目に水が溜まって沁みる。
俺だって寂しいんだよ。
俺の卒業式の日、いい加減泣き顔は飽きたと言えば、キャンキャン吠えるものの、
逢いに来るからよ、と告げれば、くしゃくしゃの笑顔で笑った。
2度目の甲子園決勝の日、今度は俺は応援側。
見守ることしか出来ない歯痒さが、アイツの堂々たるピッチングと響き渡る声がそんな気持ちを和らげる。
ふと目が合ったかと思えば、笑顔でガッツポーズを向けられる。
甲子園で一番アイツが輝いて見えた。
全部、全部、
言葉にしなくても、
愛しさが失うことなく積み上がっていく―
俺達のそれぞれの高校野球は終わった。
沢村は今日、青道を卒業する。
さぁ、新たな人生の門出だ。
「バーカ、とっくに俺はオマエのもんだ。んで、オマエは俺のもんだ」
強引に引き寄せた身体をギュッと抱き締める。
「動くなよ」
今日のために用意したものを沢村の首に付ける。
「なぬっ、せっ、先輩、コレっ!?」
キラッと光るそれを見た沢村の慌てようは想像通り。
みるみるリンゴのように赤くなる沢村は可愛い。
「沢村、愛してる」
「!?!?○!※□◇#△!」
「ヒャハハ、言葉になってねぇぞ」
「だって、だって‥」
「泣き虫だな」
「うっせー、嬉し泣きだ、悪ィか!」
「タメ口!」
逆ギレする沢村の頭を両側からグリグリすれば、すぐ降参する。
「イテテ、すんません」
絞めるのは簡単にコレぐらいにして、ソッと手を掴んで額を合わせた。
「‥ずっとオマエに伝えたかった」
「‥はい!俺もっ、俺も倉持先輩を愛してやす!!」
「おう!」
ニッカリと笑い合い、どちらかともなく唇を重ねた。
もう、オマエを離さない―
END
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