■3F:はてなの文庫・参

□リチャード
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「ハァハァ。あっ…。ハァハァハァ。」

これは、電車の中の痴漢オヤジのちょっと臭う吐息でも、
情事の真っ最中のカップルの桃色な吐息でもない。

喫茶店「じいさん」の一席で、八重子(56)が吐いている、緊張感と興奮が入り混じったパッションピンクな吐息である。


猛り狂うような、お日柄も良き、水曜日の午後。

たった今から、八重子(56)才は、イケメン店員大クン(22)にラブレターを渡そうというのだ。

八重子は、先ほどから、水を注文をしては、片っ端から飲み続けている。

そのせいか、興奮のせいか、汗がしたたり落ちるのを、薄いレースのピンクのハンカチで拭う。
拭って拭って、終いには汗も化粧も脱げ、あとは顔が油性になるばかり。
更に、おしっこに行きたくなってしまい、形相は更に迫力を増し、足モジモジの前傾姿勢と、その後ろ姿は、獲物を狙う猪の如しとまで言われた。

秘密結社「リチャード」には、あと10分で着かなければならないのに…

木谷八重子、56歳。

豹柄と韓流をこよなく愛する女である。
ついでに言うと、緩いパーマのかかった髪はあくまで自然に任せ、普通の化粧は少し目元の紫色のアイシャドウを、内出血斑のようになる位、目立たせることを好む女である。

最近は、少し弛んできた顎と二の腕の肉、パンツの上にやや乗っかる腹部の脂肪層が気になるお年頃の女である。


その彼女が、恋をした。
お相手は、八重子が大好きな…いや、愛している韓流スター「イ・フォンダル」によく似た、日本人の喫茶店従業員、大クン(22)である。
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