■3F:はてなの文庫・参

□リチャード
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彼は、喫茶店「じいさん」で働く好青年だ。

ゆるくパーマがかかった黒髪が顔全体をすっぽりと覆うほど、伸び散らかっている。

それを、毎日遊ぶかのように、前髪だけ横で結んだり、真ん中で結んだり、はたまた、全体をがっちりと、硬派のように一つ留めしていたり、パーマをスタイリングし、ハードワックスで決めている時もある。
ある日八重子が

「フォンダルって、髪型色々で、おしゃれさんねぇ。」

とハートを語尾にまき散らしながら尋ねると、

「くせっ毛さんの、その日の気分次第なっすよ。俺の力量だけでは、あんなスタイリングできないッス。ははっ!」

と、大口を開け、からりと笑った。
その可愛らしいやら、気さくやら、謙遜も知っているいい子やらで、
店内全てのおばちゃんたちのハートを、ぎゅぅっっと鷲掴み、持って行ったという伝説の持ち主である。

もちろんその持ってかれたハートは、八重子が、
「ウチノ子がすみませんすみません。」
ばりの、何故か〈かぁちゃんポジション〉を勝ち取って、皆様に、のしつけてお返しに上がったという。

八重子、お目付け番長の称号を得る。


ある日珍しく眼鏡をかけていた大クン。
八重子が「あれ?今日珍しく眼鏡?かけてたことないよね?」と、問う。

すると

「うぅんうぅ…。ここだけの話ですね、
今日コンタクトが入らなくて…。
どなたのお顔も、よく見えないんです。
皆さん、大ちゃん大ちゃん、呼んでくださるのに、近くまでいかないと、誰か分からないとか、声が混じったら聞き分けられないとか、失礼なことしたくなくて…。
で、今日は眼鏡なんですけど…。
実は聞いてもらえます?
僕、前の失恋引きづってて、それ以来、眼鏡かけるの嫌だったんです。
でもこれは…、このクロムハートの縁眼鏡は!前からお気に入りなんです。
だから今日からは、またこの眼鏡と共に、失恋も吹き飛ばして、仕事を頑張ろう!という僕なりの決心!なんです。なんて。小っちゃいっすけどね。」

と、ククっと手を口元にあて笑う。
二人の内緒話シチュエーションを、天然でやってのける。

八重子、『私に、秘密教えてくれんの?秘密とか言いながら、店中に聞こえとるけど…かまへんかまへん!ほーんと!い い 子っだっわぁぁぁぁぁ。』と、絆された。

ついでに、店内のおばちゃん皆、耳を澄ませて聴いていたので、皆も絆された。
そして、ずっぎゅぅっん!!と、店内全員のおばちゃん、胸を打ち抜かれた、という伝説ものこっている。

もちろん打ち抜かれたハートに刺さってた矢は八重子が、
「ウチノ子がすみませんすみません。」
ばりの、やはり〈かぁちゃんポジション〉を勝ち取って、皆様の分抜いて差し上げたという。


八重子、親衛隊隊長の称号を得る。
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