「神童、調理実習はクッキーになったらしいぞ」

部活が終わり、霧野と帰っている途中でそう言われ、幼い頃を思い出した。

クッキー…か…。
まだ幼い頃、理由は忘れたが公園で泣いていた時。
同い年くらいの名前も知らない少女が俺に声をかけてきた。その少女が、母親と作ったというクッキーをくれたのだが…
とても甘くて家の人が作るものより美味しくて…今でもその味を覚えている…しかしそれ以上に、その少女の笑顔が眩しくて、胸が高鳴ったのを覚えている。
あの少女は今、どんな感じなのだろうか…

「神童?」

霧野に声をかけられハッとした。
何を考えていたんだ自分は…!!

「な、なんだ…?」
「いや、ぼーっとしてたから…なんか顔も赤くないか?風邪でもひいたか?」
「え、いや…」

その後は心配されつつ霧野と部活について語り別れた。



調理実習当日…――

実習はほぼ自由で席順で別れたそれぞれの班で何を作るかを決め、それを男女別々で作る、という単純なものだ。

「わぁ!!神童君片手で卵割れるんだ!すごいカッコイイー!!」

きゃあきゃあと騒ぐ女子がとても煩いが無視して続ける。
霧野の方も大変そうだ。
…こいつら自分の班は放置で大丈夫なのか…?
男子も男子で騒いでいるが…
気付くと班員は二人になっていた。

クッキーは昔のあの出来事以来よく作るようになったがなかなかあの味には近づかなかった。

ちらりと女子の方を見ると、三人のうち二人は霧野の方へ行っており一人ポツンと生地を作っている姿があった。

…よく見るとあの時の少女に…似ている…?


じっと見ているとあろうことか目があってしまった。

「…どうしたの?」
「いや…」

声も、多少変わっているが同じ気がする…

「わからないことがあったら言ってね、クッキー作るのは得意だから!」

笑いかけてくるその笑顔もそっくりだった。
…本当にあの時の少女なのか…?


そしてそれからは先生の一喝が入り、皆渋々ながらもそれぞれの班へ戻り、クッキー作りも順調に進んでいった。


そして完成。

「ねえ、神童君、私達のクッキー食べてみない?」

そう言ってサボっていた女子の一人が差し出してきた。
いや、"私達の"じゃないだろ…
名前はわからないがそこの女子の、だろう…?

…とは言わずに、クッキーを貰っておいた。
もし、彼女があの時の少女ならば…
違っていても損はないだろう。



…あの時のと全く、同じ…味…。

「おい、」
「わぁっ!!!」

声をかけると洗い物をしていたその人は驚いて皿を落とし、割ってしまった。

「ご、ごごごごめんね!!」
「いや…こっちこそ…すまん…」

一度シーン…と静まり返ったがすぐにまた周りは騒ぎだした。

「あ、お皿…!!」

するとハッとして彼女は慌てた様子で破片を拾いだすがすぐに手を引いた。

「…切った…のか?」
「う、ううん?切ってな…」

喋り終えるまえに切ったと思われる利き手の手首を掴み見ると血が滲んでいた。

「先生、怪我をさせてしまったので保健室に行ってきます!!」

先生の返事も聞かずにそのまま手を引き調理実習室を走り出た。


保健室に行ったらまず、名前を聞こう。
それから…何から話せば良いだろうか?





拍手ありがとうございました!!






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