「オフ会」シリーズ

□3・世界・予侵
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 無数の落葉と木漏れ日が差し込む、一面の緑に埋もれた遺跡ダンジョン。
 ブナ林に似た背の高い木々の樹冠からは透き通った青空が見え、踏み固められた道の脇では、小ぶりの白い花を咲かせる草やシダなどの植物が生い茂り、その上を蝶が遊んでいる。地肌から突き出すように森林の中に点在する巨大な石柱や建築物の大半は、コケや蔦に覆われ風化しかかってはいるものの、その堅牢な外観と、侵入者を阻むトラップの数々は十分に機能していた。
 朽ちた石壁に囲まれたダンジョンの奥で、今しがたモンスターとの戦闘を終えたばかりのパーティが会話している。
「ねえ、獣神殿はまだ遠いのー?」
 緊迫していた場の空気をゆっくりとかき混ぜるような間延び口調で聞いたのは、ヒトと同じ体格を持つライ族の女斬刀士(ブレイド)だ。近くの宝箱に向かって歩きながら、パーティの中心である男性の鎌闘士(フリッカー)を振り返る。
「ちょっと待って、今オーブ使うから…」
 そう答えてアイテムを使う男の隣で同じようにマップを開いて眺めながら、呪療士(ハーヴェスト)の女性PCが疲れた顔でため息をついた。
 3人とも全くの他人だ。偶然タウンでパーティを組み、ダンジョンにやって来たのだが、元々レベル差は大きく、一番低い呪癒士がアイテム専門の回復役になっていた。例の事件以降、なんとなく抵抗を感じてPCをあまり育てていなかった彼女には、ここの設定レベルは少々きつい。2人のフォローに回るどころか、自分の身を守ることで精一杯だった。
 物憂げな呪療士の様子に気づいたのだろう。女斬刀士が立ち止まり、困ったように笑う。
「そんな楽しくなさそうな顔しないでよー。誘ったのは僕なんだから、ちゃんと守ってあげるって」
 おそらくはロールなのだろう独特の一人称を用い、斬刀士は手をひらひらと振って再び宝箱に向かう。トラップが仕掛けられてあるらしく、盛んに飛び跳ねる宝箱の前で眉間に皺を寄せる彼女を遠目で見やった呪療士に、マップを確認し終えた鎌闘士が暢気に声をかけてきた。
「あと一区画だから、少しでもレベルが上がるといいね」
「…そうだね」
 表向き青年を演じてはいるが、深く洞察すれば言動の端々に幼さが垣間見える鎌闘士に、呪療士は笑い返した。2人の親切な気遣いに、少しだけ心が軽くなる。


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