「オフ会」シリーズ
□2・世界・喪哭
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先ほどまでの動揺を忘れ、ハセヲは久々に会った三郎との距離を測りかねた。そうして少しだけ冷静さを取り戻し、自分がどこにいるのかを思い出す。三郎に再会したことも驚きだが、もっと別の人物を心待ちにしていたため、落胆がどうしても抑えきれなかった。
何を、期待していたのだろう。――あの音は聞こえなかったのに。
思わず嘆息しそうになるのを耐え、ハセヲは表向き平静を装って尋ねる。
「…今まで、何してたんだ?」
抑揚のない問いかけに対して、三郎は不思議そうな顔をした。
「? 再会を喜び合うには随分と余裕がなさそうだね」
あっさりと見抜かれてしまい、ハセヲは仏頂面になる。PC越しでも機微はちゃんと伝わるものだと妙に感心した。もともと三郎の洞察力が並外れているせいかもしれないが。
黙りこんだハセヲを見やり、三郎は軽く肩を竦める。
「まあいいか。…私は相変わらずさ。この姿も案外捨て難くて、ずっとこのPCで通してるよ」
「…そうか」
他に言うべき言葉が見つからず、ハセヲは変な相槌を打った。
ハセヲから聞いておきながら他人事のような反応に、特に気を悪くした様子はなく、三郎は好奇心できらりと瞳を輝かせる。
「あんたは?」
――どきりとした。
聞き返されることは予測できていたのに、なぜか心が騒いだ。
別に、疚しさはない。"今まで何をしていたか"を後ろめたく感じる必要など、全くない筈だ。ならば、原因はおそらく別のところにあるのだろう。
ハセヲは口を開き、閉じて、背中から降り注ぐ鮮やかな射影をふいに感じた。場の空気は神聖であるがゆえに透明で、何も含まない。何かを成そうという意思すら聖堂からは感じられない。光がもたらす慈悲も温かさも、ただの残り香だ。――ここは、正しく"死"んでいる。
ややあって、ハセヲは話題を変えた。
「…………あんたに頼みたいことが、ある」
三郎は首を傾げた。
「へえ、珍しいね。時と場合と気分によるけど、何?」
詳しく話を掘り下げられなかったことに内心感謝しながら、ハセヲは三郎を真っ直ぐに見据えた。
「トライエッジ……あいつの行方を、知りたい」
以前よりもずっと落ち着いた口調で言うと、三郎は不快そうに眉を顰める。
「あんた…まだ三爪痕を捜してるの? 一年以上経つのに、呆れた…復讐心もそこまで来ると立派だね」
「違う」
はっきりと否定する。言葉は短く、声量も小さかったが、そこに込められた意志の強さに気づいた三郎は表情にはっきりと困惑の色を宿した。
「どういうこと…?」
聞かれて、ハセヲはやっと思い出した。三郎はまだ知らないのだ。未帰還者が戻ってきたことも、真の三爪痕が本当は誰であったのかも。
だが、それを話すと長くなる上に、無用な混乱を招きかねない。それに、どうせ言っても信じやしないだろう。ハセヲは暫く沈黙し、曖昧に言葉を濁した。
「志乃は、戻ってきた。けど…………あいつに会いたいんだ。どうしても」
切なさの滲んだ呟きは聖堂には響かず、空気に溶けて掻き消えた。
三郎は黙したままだ。PCの操作を離れ、何かを考え込んでいるようだった。