「オフ会」シリーズ

□3・世界・予侵
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 トラップを解除している斬刀士のところまで並んで歩いていった、その時だった。
 宝箱が、音を立てて開くなり――周囲に酷いノイズがはしる。
「!?」
 呪療士の息が詰まった。
 反射的にM2Dに手をやり、目を瞑る。暗闇の中でごぼり、と何か得体の知れない音が聞こえたが、『The World』のSE(サウンド)にしては奇妙だった。
 再び目を開けたときには、全てが元に戻っていた。腹に落ちる重低音のBGM、森林に満ちる空気の流れすら錯覚できそうな落葉の風景、リアルより現実じみた、ここにいるプレイヤーにとってはもう一つの現実。
 呪療士はとっさに辺りを見回した。アイテム取得後に消えた宝箱の前で、こちらに背を向けたまま硬直している斬刀士と、隣で怪訝そうに眉を顰めている鎌闘士が見えた。
「さっきの…なに?」
 恐々とした口調で呪療士が尋ねる。まるで、何ヶ月か前に『The World』で騒がれていたバグを思い出させる、嫌なノイズだった。
 返事を求めて鎌闘士を見やると、軽く肩を竦められる。
「さあね…。その宝箱にバグがあったんじゃないか? アイテムは…ちゃんと入手できてるよな?」
 そう言いながら正面の斬刀士に冗談めかして笑いかける。
 だが、――返答がない。
 さっきからぴくりとも動かない斬刀士に、2人は顔を見合わせた。
「…おい……大丈夫か?」
 彼も過去の経験から内心穏やかではなかったのか、強張った顔で鎌闘士が女斬刀士の肩に手をかける。
 ――刹那。
 び。
 先のノイズよりは随分と軽い、調子っ外れな音が呪療士の耳に届いた。


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