TOA短編集

□知らなかった感情
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マルクト軍執務室。ジェイドは時折、グランコクマに立ち寄ると、貯まり滞っている仕事をしに来ていた。

軍属の大佐の地位に籍を置いてある以上、例え任務で旅をしていても帰れば書類が回って来る。

まあ。ジェイド自身が他の者に任せられないものがある、という事実もあるのだが。

そんなことで、今もジェイドは溜まっている書類をチェックしてまとめていた。

「…………」


ドサッ…


ジェイドは無言で書類を見ている。


バサバサッ…


「…………」


また、無言で書類を照らし合わす。


ドサドサドサッ…


「…………」


無言で書類をまとめる。


ガシャン…!


「…………」


無言で作業を進めているジェイドには似合わない、金属を蹴った様な音が聞こえる。


ガシャガシャガシャン!


「…………」


今度は金属の崩れる音。


「…………」

ジェイドは、自分が作業をしている机から少し離れた本棚の前に視線を移し。


「……貴方はいったい何をしたいんですか? ルーク」

「え。ごめん…邪魔したかな…」

本棚の前には、幾つかの本とがらくたの様な武器防具に埋もれたルークが居た。

「邪魔だと思うんでしたら、最初から来ないで下さい」

「ごめんジェイド。…やっぱ、俺が居ると迷惑だよな…。」

ルークはどこか寂しげに俯く。


「そこのがらくたは陛下の物ですよ。あまり弄らないで下さい。」

「えっ!? や、やべっ! ごめん!!」

慌ててその場から離れる。

「それと…。居るのが迷惑なら、最初から執務室に入れたりしませんよ」

「ほ、本当か!?」

「ええ。本当ですよ」

笑顔になって尋ねるルークに、ジェイドは軽く微笑んで答える。


「ただし、あまり散らかさないで下さい。」

「分かった! え、えっと…これ片付けるな」

ルークは先程散らかした本を手に取り、本棚へと戻し始める。


ガシャン!

「Σあっ!」

バサバサッ…!


ルークがまた、がらくたの山に躓き本を落とす。


「………」

「え〜と…すぐに片付けるな」

 
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