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□存在のない悲しみ
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ソファに深く座っていたヒカルの目の前に、一通の封筒が差し出された。
だが、ヒカルは手に取ろうとはせず、差し出した人物である緒方十段を見据える。
不貞不貞しい態度で腕を組んでいたヒカルは、ゆっくりと口を開いた。

「コレはなんだ?」
「十万、入っている。仲介料として考えてくれ」

緒方の言った仲介料という言葉に、ヒカルの眉が僅かに吊り上がった。
金額に関しては何を思っているのか分からないが、仲介料という言葉から浮かぶものに心当たりがある。

「Sai……か」
「どうしても、あの打ち手と手合わせしたい。お前だけなんだろ?あの打ち手と連絡が取れるのは」

ヒカルに劣らない態度で緒方は胸ポケットから取り出した煙草を銜える。
慣れた仕草で火を付けると、煙草の煙が室内に散った。
二人とも口を開かず、ただ睨み合っていた。
どのくらいそうしていたのだろうか。
先に折れたのはヒカルの方だった。
ヒカルは深い溜息を吐くと、テーブルの上の封筒を滑らせながら突き返した。

「Saiはもう――いない」
――あいつは、俺の前から消えたんだ。
「いない?どういうことだ!?」

否定の言葉を聞いた緒方は、驚きに銜えた煙草を落としそうになりながらも怒鳴る。
けれど、ヒカルは投げかけられた問に答えず、静かに首を振った。

「代わりに、俺が打つよ」
「お前が!?」
「そッ、佐為の師であった俺が…………」

そう言ったヒカルの表情は暗く、何かに耐えているような悲痛なものだった。
緒方はその様子に何も言えなくなり、驚きと疑問を顔に出した。
二つの感情が表に出た緒方の表情に、ヒカルは思わず苦笑を洩らす。

「だから、この十万はいらない。――俺で我慢して」


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