other(短編)

□Happiness
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「空吾」
そう呼び掛けようとして寸前で止めた。



あたしは―というか、一定の条件下で育った奴なら結構そうだと思うけど、人の状態を見るのが上手かった。


状態つっても体じゃなくて精神面。機嫌の良し悪し、喜怒哀楽。
特別自慢できるようなもんでも無いけどね。





でまあ、それで判った。
距離のある後ろ姿で。十字架のネックレスを掲げ見つめるその様子で。




今、空吾が『声を掛けてはいけない状態』だってこと。





誰にでもあるもんな。
そう思って、あたしはここから立ち去るべきでそうしようと思ったけど、結局動けなかった。何でかね。









別にさ、あんたが特別じゃない。あたしも特別じゃない。同じはぐれ者。





でも『気持ち判るよ』とか寒くて空恐ろしいこと軽々しく思えないし、口にするなんて以ての外。
あたしも言われたくないし言われたらソイツぶっ飛ばす。







判られたくないんだよ、他の奴なんかに。

痛みは痛いけど蔑ろに出来ない大切なもんでもあって、それは人それぞれ違うだろ。例え状況は同じでも。





各家庭の味噌汁みたいなモンだ。そう思って失笑した。
例えが間抜けすぎる。








「よォ、ジャッキー。」




その自嘲が聞こえたのか最初から気付いていたのか、おそらく後者だろうけど空吾が横目でこちらを見た。

あたしも不思議と平然と「ねえ空吾」と返し、本当に普通に、言った。













「死なないでよ。」












言ってから『何それ』と思って、空吾からも「何だそれ」と笑われた。







いや、自由だけどさ。
あたしにこんなこと言う権利はないし、あんたがこの先何を選択するかも自由なんだけどね。好きにしたら良いんだけどさ。








…本当に何でかね、大きなお世話だろうけど気付いて欲しいと思ったんだよ。
あんたの為に泣く奴が居るってこと。









多分それって、この上なく幸せな事なんじゃない?

















-end-
 

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