過去篇短編集
□Identity
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パシャ、パシャパシャ。
水しぶきを軽く上げながらギンは両手を擦る。
カナカナ、カナカナ。
蜩が遥かで鳴いている。
その声に合わせるように水桶で十本の肌色が踊ると、いとも簡単に透明が赤に染まった。
――今日、
パシャ、パシャ。
―殺したあの死神で
カナカナ、カナ。
―何人目やったやろ
そう思いつつチャプリと右手を持ち上げる。
ポタ、
ポタ
ポタ。
手を伝い落ちる水滴が確かに見えるのにその感覚は皆無だ。
一体この手は誰の持ち物なのだろう。
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